モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

25.光景



(なんだ? 小賢しい真似しやがって)闇に目をつむっていても、気配はわかる。

(行ったと見せかけて戻ってきたのに、何考えてやがる)寝台の隣にメアリがぼさっと立って、ゴランを見下ろしているのだ。

「おい、いい加減にしろよ。もう我慢しないぞ」寝台の外に手を伸ばし何か投げつけてやるものがあればと思った。しかし、手は伸びなかった。ゴランは眠りをむさぼった姿勢のままであった。

(なんだ、金縛りか……。ただの夢か)今日は疲れた。いろんな女に疲労を覚えていたのだな、とゴランは少女の幻影から目を背けて眠りたかった。

 気がつけば視界が塞がれた。ゴランを驚愕せしめたのは、女の肢体であった。黒いローブ、垂れ下がる白い外套、豊かな赤い髪。《ミラージュ》に見せられた絵姿そのままで、見事なほどであった。

 寝台の男にまたがる女は上体をそらすと笑った。ゴランはメアリの方を見やった。長く赤い髪の少女も笑っていた。

「そうなのか? やっぱりそうだったのか?」女はゴランの叫びを意にも介せず動く。ゴランの心がすくみ上がる。女が懐刀を手にしていた。(やっぱり気取られていた)

「アンジェリカ! アンジェリカもいるんだろう! 来てくれ!!」男の叫びは部屋のしじまに吸い込まれていった。女の白刃はもう目を背けることのできない所まで来ていた。朱に染まる寝台が克明に想像できた。いつかこんな日がやってくると思っていた。

(もうなのか。もう、こんな所で)喉を掻かれるのがこんな時の常道だ。

 弔鐘が鳴った。


(もう昼か)ゾール神殿の鐘で目が覚めた。起き抜けに嫌な気持ちを覚えたが、悪夢はすでに溶けるように記憶からいなくなっていた。(やっぱりそうなんだろうか)ゴランは覚えていないものについて感想をもらした。

 そして、ブルガンディの不吉な予言をいう老人と、悪漢のロイとやりあった時の自分の見た不可解な光景を唐突に思い出したのだった。


(あの赤ねずみをとっちめようとした時とだいぶ違うな)木々は生い茂っても見通しがよく、なるほど昼間の公園は気持ちがよいとゴランにも思わせた。

 そして丘――というより崖――は陽光を集め堂々としていた。ゴランも参拝客に混じり登ってみる。

 屋根の下に緞帳が開かれ、巨大な絵画が一幅展示されている。周囲には観覧用の長椅子が多数置かれているが、ひざまずいたり伏し拝む者も多い。

(上手いものだな)不遜かもしれないが素直に賛辞した。よく似た武装をした四人の男女が巨大な悪魔に立ち向かっているように見える。

(だが、これがゾール神なんだよな)