モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

21.送迎



「なあ」「こない満ちたりてると、じんせいこれでええかって気になるわな……」

「同意を求めるなよ。ばあさんみたいなことを言いやがる」見ればメアリの上体は斜めになりかけている。赤い髪と黒い服が、雨上がりに差し込んできた月光を湛え、布団にぼんやりと影を作った。

「望み通りにとどめを刺してやりたいが、」ゴランは自分の寝台に近づいてメアリの隣に腰を下ろした。少女の赤いこうべは布団へ再び吸い寄せられているらしかった。

「俺の部屋にどうやって入り」ゴランは横目でねぐらの様子を眺めた。白い皿を数々並べた覚えはない。食事を意識すると血の匂いは肉の新鮮な香りに認識が変わった。「どれくらい荒らしたのか教えてほしいね」

「ああ……ふっかふっかや……。ええよ……」メアリは寝台にすっかり顔を埋めてから話し始めた。

「あのな、よなかに雨までふってきたらな、ちいさなおんなの子なんか金もちの馬車にひかれるのがおちやろ?」メアリは顔を上げずに喋る。彼女の長い長い髪によって布団の上に再び血の河のような流れができた。

「こうして新しいいたずらを仕掛けているじゃないか。俺をがっかりさせるなよ」

「せやで。すばやくとびすさって、泥はねられたやないか!っといちゃもんつけて金をふんだくろうとするくらい、うちは元気なんや」

 まさか間諜か斥候かそれとも?、とゴランはうつぶせの子の髪の色を記憶と照らし合わせていた。先程のあの絵。さっきからぐたぐだと寝そべる姿に、もう一度まさかなと思った。

「……それがちょうど送迎車だったと?」「どや」とメアリは答えた。「ぎょしゃは人ひとりひきかけた引け目があるよって、こころよううちを運んでくれたわけや。人がひいとるときは押せる。たんじゅんでうまい話やな」

「ふうん。俺の宿に大当たりしたな。まさに上手い話だ」「えっ……」

「山の手の宿に送迎馬車の数を掛けたらいくつになるだろうな。城への訪問はもちろんだが、下町にまで鐘を聞かせる大神殿を訪ねたがる奴はどれほどだろうな。俺の部屋を見つけられなかったら山の下にはもう帰れなかったろうよ。小さな当たり屋に脅かされたと思って宿の人間は腹を立ててるはずさ。意地が汚い大人が子供にさせたがるよくある手口だもんな」

 メアリはがばと布団から顔を離した。「いやあ……もう成功したんやからええやん」「俺のどのへんが嬉しがらなきゃならんのだ。人の部屋にいらん料理を持ち込んで食い荒らした野ねずみが寝床にまで上がり込んでやがった」「ひえ〜〜」

「……しかしどうしてこの部屋を嗅ぎつけた。俺の名をどうやって」メアリは夜中に吹き出した。「へっへえ。どないしてやろな」

「俺は名前なんか教えないぞ。しかし初めて顔を合わせた時は寄っていたから、その辺りか」「そない自分をせめるなや」

 言われてゴランは自らの眉に力が入っているのを感じた。対する少女の顔つきはこちらを侮るものだった。

「へへ、おしいおしい」「そうか……何度か財布に触られていたな」

「うち、なんもとっとらんもん」「取らなくても盗める物はあるもんだな」

「そないなみるからに行商人ならみぶんしょうやらきょかしょうやら取りだしやすいところにきちっとよういしとくわな。おっさんきちょう面やし。でも本名やないんやろな、うたぐり深いから」

「参ったね、恥をかかされたな。お前はそう自信をもって色んな人間を欺いてここまでたどり着いたわけだ。失敗の可能性を知らなければ馬鹿の一念は強くなる」メアリはふくれた。