モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

18.幻影



「決して驚くんじゃないぞ。変な声を上げたり、笑ったり、触ってみようとしたり、決して斬りかかったりするんじゃない」

「ええ、なに? やばい奴なの!? お、おかしな動きをしたら反射的にやっちゃうでしょ、あたしだって」歴戦の冒険者を自称するアンジェリカは腕組みして鼻から息を整えた。

「なんなのさ……まさか先方、モンスターとか?」アンジェリカは怪訝な顔になって地下の薬売りを覗き込む。白い肌をもつゴランに彼女の顔色はうかがい知れなかったが想像はついた。

「説明はできん……俺にもわかるもんか」「ええええ!!」アンジェリカは叫んですぐ自らの口を両手で掴んで止めた。

 ゴランは頭巾の中に手を入れて中身をかくのだった。「余計なことを考えさせてしまったか。さっさと行くぞ。とにかく大人しく話を聞けばそれでいいんだ」

「うわ、開けるのが早いってば!」

 薄暗い部屋が開かれた。冒険者は勇気を振り絞り中を見極めようとしたところ、ゴランは彼女の見ていない方向へ声をかけた。すると部屋――おそらく控えの間の調度品が並べてあるだろう――の片隅が複数、こちらを見た。

「さ、三人? 確かに驚いた!」と再び声を上げそうになる女。「とっと……。一人だとばかり思い込んでた」

 隣のゴランは舌打ちした。「俺が先に出るからな。落ち着いたらすぐ来い。なるべく丁寧な足取りをしてみせろよ」

 ゴランはすぐつつっと彼らの方へ向かっていった。彼らに会釈をすれば会釈が三つ返ってきたのでアンジェリカは息をついた。ゴランはひざまずいた。

 闇の片隅に長衣が四つ。立つものたちにひざまずくもの。墓地や礼拝堂に似つかわしいなとアンジェリカは思った。生意気な兄ちゃんは白い長衣だが、見下ろす彼は茶色の召し物だと目を凝らして分かった。しかしもっと重要なことがあった。

(一人になってるじゃないか……!)左右の者はどこへ潜んだのか。いくら闇の中でも、ダンジョンの一角に注目していたのに惑わされることがあるのかと、彼女は自らの冒険者の来歴に問うた。異様な雰囲気に全身の肌がひりひりしてくる。

(こんな場所で相手が黙っていなくなるというのは……)普段なら腰のものに手をかけみんなで暴れてしまえばいいのだけど。

 と思えば茶の人影は三人へ戻っており、アンジェリカの心の臓は一回転させられた。

(こんなのは体術じゃない!)訓練所やいざこざで気の利いた者の体捌きを幾度か目にしたことはあったのだ。

 と、しかめっ面が目に入った。白い長衣にくっついている頭巾の中で、生意気な青年がこちらに呆れ返っているらしい。

 会ったばかりでおかしなところもだいぶ多いけれど、彼は間違いなく人間だ……。アンジェリカはほうほうの体でゴランの隣へ向かった。滑り込むように彼女も膝をつく。

 ゆらめいていた。非常なゆらめきが一名の姿にも、幾多の姿にも見せていた。アンジェリカには想像を絶するものであったが、控えの間の壁が非情に透けているのを目の当たりにすれば、彼女自らの目が必死に訴え続けていることをそのまま内包するしかなかった。

「《ミラージュ》とお呼びしろ。必要がある時だけな」「《ミラージュ》」アンジェリカはその言葉の意味をもって必死に目の前の事象を呑み込もうとした。