モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

15.会合



(スライム祓いにしてもやり過ぎだぜ)

 ゴラン。自分の責任をどこかへやって悪態をついているのは、記された目的地が地下墓地だと判明した時からである。

 ガイデンハイムの民草がてんやわんやで焚いた火と煙は天空へ届いてそこを染めていった。モンスターからひとしきり逃げ惑った人々が、夜の空が重たい色を含んだと気づいた時、再びまごまごと右往左往を演じることとなった。

 ゴランも地表をさまよう一人であって、乾いた石畳に大粒の雫を叩き落とすことに躍起になった女神メーラに悪態をつくのである。普段の彼の身上としては、夜の雨は厚手の加護であったが、今日は頭巾をしたたかに打ちつけるものだった。無限にしたたり落ちる雨が膜を作りまるで窒息の錯覚を生み出す。

 そして思い浮かべるのはついさっきの記憶である。(逃走の常習犯にしても地下にやたらに慣れていたな、奴)堅固な屋根と壁が完備され自由に身をひそめられる場所を孤児が棲家とするのはよくある話である。(しかし雨露をしのげるのと防水というものは別だろう)もう暗いがさっきの下水と河川の轟音は耳に届けられる。物思いしながら急ぎ足を続けるつっかけはぬかるんでいった。

「あーっやだ! 冗談じゃない」心を一息に現実へ引き戻す者がそこにいた。夜半の墓地に。

「こういうダンジョンに来たことあるんだよ!」(俺は遅刻しすぎたか?)ゴランは自分がこの都市に来て起こした騒動の回数を思い浮かべている。その全てにあの長い赤毛がまとわりついているのだ。「一家でねえ、攻略したんだよ。すごいだろ。旦那と、ああ、戦える娘はまだ一人だったかな!」体格は立派なものだったが、声といでたちで武装した女であるのがわかった。それがさびれた墓地の入り口でこちらを待ち受けているのだ。

「急いでかけつけたつもりでしたが、間に合わなかったようです」「今は真ん中の娘も戦えるんだよ。あの人そっくりになってきてさ、懐かしくなっちゃう。末っ子はどうなるか楽しみだよ。まだ赤んぼなんだ」

「けれど今は他のかたのお命が心配ですよ」ゴランはそこで喋るのをやめてやった。

 目を凝らし女の顔を窺う。よく見たいが接近するのもやめている。

「なあ、無関係だっていうのか。無関係な物盗りが仕置きにきたと思っていいんだな。……見事な赤毛だな!」ブルガンディの予言は隙あらば心に忍び込んで埋め尽くしてくる。

 女は素早く腰の《ブロードソード》に手をかけた。「やる気か! ……いやいや、はいはい。本当に言わされるんだね。気のつけようがないでしょう。人生なにがあるかわかりませんよ。ふん、もっと丁寧に言おうか?」

「しかし目が悪いんだねえ。仕事やれんの? よおく見なよ」女はくるりと回って髪をかき上げた。「きれいな紫だろ」

「悪かった。背中なんて見せるなよ」「ねえ聞いてよ。娘たちの髪の色はさぁ」「余計なことばかりだな。口も閉じろ」

「いいじゃないか。こういう都会にはあまり来ないからね、知り合いがいなくて口さびしかったのさ。あたしはアンジェリカ。よろしく、相棒」ゴランは顔をしかめる他なかった。「これ以上何も聞きたくないね」

「ちぇっ。ほーっ、いい入り口だと思ったら、中は乾いてていい感じじゃない」アンジェリカという戦士はゴランとともにまたいだ敷居を振り返った。「さっきのダンジョンの話ね、腐ったやつらがひしめいててさぁ。だから、あたしらのなけなしの貧乏くじになるわけなんだけど」

「口を閉じろと言ってるだろ、素人か」「はは、いいじゃないか。あとはもう依頼主しかいないんだろ? 夜の墓地、よく考えてあるよ、はは」