「さてと」少女の気取った仕草と自分の濡れた尻に構わずにゴランは歩を進めだした。 「ちょ、なんで出ていくん! せや、手拭きをかしたる。こうきゅうひんなのに貸し賃はただやで。うちがそうするんやで」「なぜ……? お前は臭いのが好きか。まるで、どぶ」 「ちょ」メアリは声を潜め、「だれでも嫌やわ。だからここにおるわけ」「嫌いなのにお前はいる? ああ、不良共から隠れているのか」 「手ぬぐいは要らんよ。汚い場所できれいにしてどうする。お前も不良も俺になんの関係もないぜ」再び歩を進める。(急いで《ミラージュ》に弁明だ) 「あーもう、誓ったやろ!!」メアリは吐き出すようにこの地下に叫ぶのだった。「お前はとにかくうるさいな。人殺しがさよならと言ってるんだから喜べよ」 「なあ〜〜うちのことまもってくれる約束やないか〜〜」 「ああ、そうだった。なんて言うわけないだろう。平気で嘘をつきやがるな」 「ひとをはめてころしたろかんがえる奴よりはまともなうそやろ!! ほんまたのむわ、やつらにみっかったら泣くまでけられてさいふ丸ごともってかれるんやから」 「お前がこれを持っていくからだろうが」ゴランは懐の依頼の書に手を当てた。「泣かされておけ」 「うそなきやのうて、ほんまに涙とまらんようになるんや!!」メアリはぱっと自分の口に両手を当てて呻いた。あごを上げる。石の屋根に阻まれて見えぬ地上を見上げているのか。 「俺がお前を傷つけないと言っただけだぜ。誰かがお前を泣かしてくれたら俺は喜ぶんだ」 「ほんま、ほんまはらのたつ」メアリは大袈裟に首をかしげている。「また立派なエルフさんが現れてくれるかもしれんぞ。期待しろ、じゃあな」 「いやいやいや! あのエルフはんも正義の味方やなかったんやないかって思っとったところや! それを聞きたいわ!」 「はあ……?」出ていくゴランの前に少女が急いで回り込んだ。袖にすがり始めたメアリの顔を覗き込むと、彼女は問いはじめる。 「い……いくらエルフでも観光でああいうところにねとまりせえへんやろ? な……なんやったっけその、あやしいもんの役目は」 「斥候か」「せやせやせやせや! なんやいうてたもん、あやしい任務のこと!」ゴランも多少気に留めていた。 「うちのこと安心させてこのくににはいったんちゃうか? やっぱりエルフはんかてただで正義の味方になるわけないわな……。ガイデンハイムにもエルフが攻め入ってくるんやろか……」メアリは 地下で自分の両肘を寒そうに抱えた。「お前はこの国の姫か? それにしても密命があるなんて自分から喋る斥候はいないぜ」 「でもみつめいってなんや。ただ気い引いただけか」ゴランは肩をすくめて軽い態度をとった。「俺は正義の味方じゃないし耳も尖ってないぜ」「あほか。絶対になんかあるんや……なんやろ?」 「ふーむ。なんだろうな? あのおかしな言いざま。でも俺は奴がこの国に用事があるとは思ってない。だいたい、今のエルフの敵はケフルだ。このずっと北のな」 「いや、わざわざずうっと南へきたんや。なんや用事があるんや……。せや!! ケフルと、おまけのとんかつ共がエサランバルを攻めにきたのをやめさせにきたんや!!」メアリはまた自らの口を抑えた。飛び出した会心の大声を押し戻したくなったように。 「なかなか筋が通ってるな」メアリは小さく「どや」と言った。「しかしそれなら堂々とこの国に入ればいい。斥候でなく使者になれるぜ」 「ならなんで密命なんていうたんや!」「この国が標的でないとお前に言いたかったんじゃないか。いまいましいね。俺がこうしてお前に説明してやるとまで踏んでいたとすれば」 |
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