赤い髪、予言された、ロイと同じ手口、繁華街の喧騒、群衆の中で目立つ、酒。 「てめえ!!」ゴランの怒声は夜のガイデンハイムをつんざいた。 「なんや!? へえ!? ええ!?」闇の中に赤い髪を浮かべていた子は声と身体を同時にひっくり返して転げた。砂利の跳ねる音、石畳に尻もち。 「てめえ、母親はどこだ!!」ゴランは今まで溜め込んだものに流されて止まらない。 (逆に旅人に絡まれてるぜ)(珍しい奴)周囲から含み笑いが起きた。ゴランは首が締まっていくような錯覚を覚えた。ついに自ら野次馬を集めるようになった。首には血と一緒に流れる酒がたくさん詰まっている。 「みなしごのなにがわるいんや! ええ!?」夜の灯りに鈍く光る地面のほうから啖呵が響く。 (こいつが父親じゃねえのか)皇帝のお膝元の民がくすくす笑い出した。(ようやくお迎えか)(早くお城に帰れよ) 「ええ……ほ、ほんま? に、にとらんやないか、こないな四角いおっさん」赤い髪の子は座り込んだまま首をこちらへひねった。 「し、しかしな……その頭巾、とってくれへん。ゆ、ゆっくりやで。ゆっくり」反対に、女の子は膝をばねにしてぽんと立ち上がった。自身の黒いローブを慌てながらも丁寧に埃を払う。ゴランにも花柄の刺繍が目に留まる。(金糸のようだ。ローブとはなにか違うな) 「父親も母親もいないのか。邪魔したな」ゴランは自ら作った人垣をつき崩して駆け去った。 「じろじろ見んなや。ねうちもんやからって、やーさんのよっぱらいの風来坊の手のとどくようなもんやない。うちかてな、いつかかならずこないな薄情な街をぬけでられる時がくるんや……あら」 取り残された女の子は一瞬所在なげに突っ立っていたが、転がっていた自分の財布を思い出して拾いに行った。 「いやいや、おかしいやろ……ほんまにおとんならな、ああいうこと大声でしゃべるわけがない。大勢のまえですごんでほんまにあほなやっちゃ。ああいうの野放しにしとったら大事おきるで。さ、まだだめになっとらんごはんもようさんあるし、今日は帰ったるわ」少女も人垣をつき崩して去っていくのだった。 (ああ見えてほとんど嘘はついてない)ゴランは盗み聞きしていた。夜の闇にまぎれて静かに駆け大回りで戻ってきていたのであった。 酒が彼に殺気を発せさせ、子供は野生のモンスターのように縮み上がってゴランを畏れた。(あれは小さななりで必死に頭を回転させ足を早めかろうじて生きているだけの、どの街にもいるただの餓鬼だ) (しかし、気の利いた衛兵がいたら危なかったな)ヒューマンといえど厳戒態勢のなか騒ぎを起こす旅人は。(餓鬼は財布で商売をやろうとしていた)鼻薬か……とゴランは思った。稼ぎのほとんどは取られるだろう。そして危なくなってもこう誰も助けないことになる。(先程の検閲所といい、大したお膝元だな。いや、お膝元だからか) ゴランは特上の宿を選ぶことにした。金は使える時に使っておく考えもあったが、自分の起こした騒ぎからは当然なるべく離れたい。案内所で紹介されたのが山の手の宿だったのは好都合だった。大きな乗り合い馬車に隠れ休息を取りながらたっぷり移動できる。宿賃はいくらでも払えばよい。城に寄るから一度街全体を見下ろせるのもよかった。 席について出発を待っていると、高い女の声がして乗り込んできた。 「おとん、おまたせ! さあ行こか」 「互いにおかしな点が多いからな。こうなるかもと思ってはいたが、正直言って驚いている」 「うまいぐあいに他の客がおらんやないか、へへへ」赤い髪の小さな女の子は満面の笑顔でゴランを捉えるのだった。 「もう遅いからな……。お前は足が速すぎる」 「そりゃまあ……。いいたかないけどうちは必死なんや」少女はゴランへの視線をすこし外した。後ろにまとめた長く大きな赤い髪も揺らぐ。 「名は?」 「そっちがさきやろと言いたいが必死やからな。メアリや! なんかおぼえあるか!?」 ゴランに覚えがあるはずがない。「メアリヤ?」 「ちゃうわぼけー」 |
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