「とにかく採用はされてんだ。あんたがいくら文句を並べたってあたしゃ居座るから。娘らの生活がかかってんだ。よくある話だけど、わかるぅ?」女が顧みるたびに紫髪が豊かに振れた。頭全体が巻き毛でできた豊かな畑。女――アンジェリカ――は地下墓地を進みながら言う。 「俺は文句を言うだけさ。逆らわないし何も決めない」「あんたダンジョンの番人? 謎かけ?」また振り返った。割にがっしりとした身体つき。なるほど母親のようだとゴランが思う前に、その肌の色も目に入っている。墓地のかすかな明かりがようやく明らかにした。(渡来人か)このウルフレンド大陸より南方には褐色の人々が住まう土地もあると、ゴランは聞いたことがある。 「黙って聞けよ。決めはしないが教えるからな。お前が来たからもう俺は教える立場にされてる」 「なに? なんなの。あんた、さっきから怒ってるようだけどあたしを騙そうってんじゃないの? 雇い主は教えてくんないわけ? とんでもない仕事をさせようってのに?」 「いっぺんに喋るなよ。俺は口が回らんからな。そんなに素早く嘘は出せん」「ふん」「先方も余計なことは言わないんだ。言わなければ探られないわけさ。こちらが上手くおとなしく探る力があるか、それが任務遂行の能力にもなるって話さ。姿が見えないからって安心してるなよ」目の前の冒険者は怪訝な顔になりながらも周囲を見渡すのだった。 「二人まとめて見られてるぜ。だから俺は平均点を躍起になって上げようとしている」 「さて行くぞ」二人は入り口の階段を降りたところである。「どこへさ。そっちの依頼書には書いてあんの?」「目的地を記してあるはずがないだろ? しかしどうせ一番奥さ。もったいぶって、雇われの勉強会が終わるのを待っている」アンジェリカは声を潜めてきた。 「そんなに大声で話しちゃっていいの? あんた、さっきから脅かしてくる割に悪口言っちゃって」 「少しは分かってきたじゃないか。先方は悪党に行儀を求めても無駄骨だと思っていらっしゃるのさ。実際に逆らわなければいいらしい。自分に正直すぎると悪党になる……ということかもしれん」(せめて女を教育していい格好をして、本音で振る舞って悪の覚えめでたくならなきゃあな……)この都市に来てから、赤い髪の女のせいで点数は下がる一方だとゴランは思った。いや、海を渡る前から取り憑いていたのだ。蘇る予言の記憶はぶり返す熱と同じだった。 「意外にお優しくて、正直なわけ」アンジェリカは地下にかすかに笑った。歩くたびに二人はしつらえた明かりとすれ違い、炎の色が肌の上を通っていった。 「急ぐか。なんでもかんでも評定の対象だからな。おそらく礼拝堂の隣りの控えの間だ」 「奥と言ったらそのくらいなのはわかるけど、どうしてさっきから道順がわかんの。地図なんかくれないんだろ」 「案内板があるだろ。ここはダンジョンじゃないんだ、冒険者のおっかさんよ」「ちぇっ」 |
|