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騎士団の行い



 矢は放たれた。

(寸時を惜しんで北へ戻ってゆく)馬も倒れよと急ぐ斥候の背をエ・ガルカは想像した。そして道中に別の斥候とすれ違うのであろう。エ・ガルカは物見に矢文を受け取った旨の書類を与えるとケフルの陣中の作戦室へ急ぐ。空を見れば色は変わりつつあって兵を動かすに適さぬと思った。灯揺れる陣幕の内で大将のファンタール卿が矢文を開ける。

――十八年の怨みは歴代が如し。行進通常


 ファンタール卿はいっとき沈思した。「我が家はヒューマンの武運ありてゾラリラ、ケフル、クルアフと登っていった。我が代で退くこと、祖霊に申し開きができようか? そして民草へ」

「随分なおたわむれを申されます」とエ・ガルカはかぶりを振る。「王命にございます」

「騎士道の愛を思い出したのだ」

「策を遂げれば愛と忠をまっとうすることも叶いましょう」

「クルアフ城下が揺れており王権に火が付けば民草も焼ける。民へ落としどころを付けることが彼らを守ることだ。分かってはおる」ファンタール卿は立ち上がり幕の一角を丸める。窓の外でも灯が使われ始めていた。もはや軍は動かせまい。オークを刺激してはならぬ。

「御大将は騎士の誇りをお示しくださいますよう」エ・ガルカは一礼する。

「うむ。無駄な時間を過ごさせた」ファンタール卿はかしこまるエ・ガルカの頭上に状況を問うた。

「砦はどれも万全に保っております。いかな狼藉者やモンスターも報告されておりませぬ」

「うむ。そちの働きこそ素晴らしい。やはりわしの引き揚げどきではある」

 エ・ガルカは頭を下げたまま笑って、「わたくしめこそ弱輩に過ぎず、ふたりの息子の成長を毎日待つばかりです」

 ファンタール卿は声を立てて笑い返し、エ・ガルカの笑顔を保ったまま下がらせることに成功した。

 しかし一人になってから、(オークを憐れむのと譲ってやるのは同じ意味ではなかろう)と思いが沸き上がってきた。顔は冷たい。