モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

2.ガイデンハイム到着



 長くて最悪な夢を見ていた気がするが、覚えていなければどうでもいい。

 喜ぶ気も楽になったとも思わなかった。ゴランの頭と身体には鉛が込められたようだったから。

(こんな情けない真似をするから倒れ伏するんじゃないのか……)鉛の入ったようなものも浴びるほど飲んだろう。(俺が女に組み敷かれて最期を迎えるってのか)彼は船内で人に会うのを前回よりもよしとしなかったが、孤独が心の小さなしこりを複雑な形に膨らませたのだった。

 不吉な死の予言と自分から近づきつつある戦火。(だが昼夜会ったきりの老人の言うことをなんですっかり信じる)

 不意討ちする者が現われた。ゴランはなんなく振り返って迎撃した。老人はただ驚くばかり。自分の背を襲おうとした者の背中が見えた者は勝った。

(だからとやすやす運命に従えるやつがいるか)ブルガンディ港を旅立った自分自身が呪わしい。

 ゴランの自答は続いた。ヒューマンの豊穣の神の裁きを受ける時だと。死の重大さを知ってこの仕事に就いたのだと。そして自分だけ生き残ると心のどこかで盲信している。いつものように。なにせ酒の染み渡った心ではなにも考えられない。


 港町に接する大いなるメルド河。手頃な船賃を払うだけで大勢の漕ぎ手が大河を遡らせてくれて、ゴランはここへ来た。肥沃な水源と森林、行き交う人々がガイデンハイムの地をエルフの森よりも栄えさせた。

 太古に光の子と呼ばれてウルフレンド大陸を救いたもうた神聖皇帝。その貴き血筋の子孫が諸王となって大陸南西に版図を広げ、今やキルギル・ゾラリア連邦となした。

(高いな)そびえる青磁の壁威容は、ゴランの酒で鈍った心にもすこし届いた。到着の前からいまいましい歓声がして、篭っていたゴランの船室に幾度も侵入してきたのもわかる。

 目の次は耳が驚いた。あからさまな軍靴の響き。わざとらしく整然と行進する騎士団。(軍事国家の厳戒か)エルフやオーク、それに不埒な旅人もたちどころにやっつけてくれそうだと、ゴランはこれからのことを様々考えた。

 考えた通り、長蛇の列の荷物検分が待ち受ける。薬売りの持ち物はこのままだと薬にも毒にもならないがらくたと、護身用の大したことのない武具なのだが、ゴランは余計なことをした。料金表を見間違えて税を倍払ったのである。仕事の詰まっている係員が料金表を無言で指差す。ゴランも無言で、再び間違えた。無言の押し問答が続くと、ゴランは別室に案内された。心構えをしたが、ただの出口であった。料金はかえってこない。振り返って、夕闇を迎えると思われる長蛇の列を眺めながら、ゴランはガイデンハイムの具合の片鱗に触れるのに成功したと思った。

 あとはエルセアの時のように仕事の連絡待ちであったが、この警戒態勢では近づきにくかろうと考え、適当な繁華街を探し移動してやることにした。無論客引きも嫌いなので、(浮浪児よ、早く来い)と願っていた。

 ゴランはふと驚愕した。いつの間にか座り込んでいて、眠っていたらしい自分に。座っていたのはにぎやかな道端だったが、ここと決めたのさえ覚えていない。船室でも自制が効かず何日も不意の眠りに落ちていたのだ。

(こんな異国の地で、焼きが回った)予言の死に近づくのを肌で実感したが、酔いで痺れた心は痛感することがない。

 だが、懐の異物は看過できない。ゴランは珍しく声をあげてモンスターを叩き出した。

(死骸か!?)転がるだけで抵抗はなかった。

「あ! あ! うちの財布、なんでおっさんが持ってるんや!!」

 どこからか子供が駆けてきた。赤い髪は夕暮れの中でも映え、馬の尾のようにまとめ上げた後ろ髪が波打つようにこちらへ走ってくる。