モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

14.時は鐘



「もう肉料理くわれへんようになったわ。どないしてくれるん」ゴランが右の袖を何度かまくり上げるのを横目にメアリは言った。

「そういう、お前が普段口にできないようなものでもたらふく頂けるぞ。山の手の宿ならな。貴族だって立ち寄るかもしれないところだ。注文する時いちいちダルトを払うようなところでもない。だからお前みたいなのは意地汚く堂々としてりゃいいさ。かえってつまみ出されないはずだ」ゴランは自身の新しい腕に服の調子を合わせつつ、片手間にメアリへ言った。

「えっほんま……。貴族ならむしろようさんちゃんとはらえと思うが、ちょっとはきいたことあるわ、そんなめし屋……」

「何を言ってるんだ。俺が宿を出るときに全部払うと言ってるんだよ。俺の財布を痛めつけてみせろ」

 メアリはゴランの目の前でなにやら白い塊を取り出すと、自分の口へ一気にほうり込んだ。「それ聞くだけでじゅうぶんや。うまいはなしやな、ほんまに」少女の言葉は咀嚼音に埋もれていった。

「何かと思ったじゃないか。握り飯か? 品書きさえ想像できないだろうに、意地っ張りな奴め」

「あほ、うちはうちの身をまもっとるんや。すきっぱらやねむけに気をもってかれるとなにもかもどうでもよくなってまう。せこいおっさんやな、ほんま。……これ思ったよりうまいなぁ。やらんで?」咀嚼の合間を縫って小さな口からこぼれでる言葉はとりとめなく続いた。絶え間ない口の動きは勢い余って俺の腕にまでかぶりついてくるんじゃないか、とゴランは思った。

「わかった、わかった。とにかく口を閉じて聞け。お前のかいだ眠り薬はそんないっときの意地で目が覚めるもんじゃないんだよ。全ては俺の見通しの悪さが招いたもので、このまま予期せぬ結果を迎えるのが俺に我慢ならんだけさ」

「おっさんこそいじ張っとるやないか。結果、いうならうちかてよけいなまねようさんしたわけで、とにかくもうかかわりたないねん、それだけや」メアリの握り飯は子供の口にはまだ収まりきらないようだ。

「お前も含めて俺の過失さ。この都市へ来る前から近頃は調子はずれのことばかりでな、焦りが先に立っていた」「まあ、悪党が互いに引き起こした最悪ってことで手を打とうぜ。悪党同士は仲良くするもんだ」

「はあ!? 悪いもんがなかよう!? なん」食事を平らげ終わった少女の言葉に大音量がかぶさった。両者は口を閉じて音がやむまで反射的に空を眺めるのだった。二人の視線を受け止めるのはしっぽりと暗くなった天だった。

「う……うちねとったから夕べの鐘はとばしとるよな?」「ああ。俺も聞いてない」世間の市民の仕事の終わりを意味するゾール神殿の晩の鐘。それに始まりを告げられる者もいる。ゴランの心に大きな荷が届けられる。心を押しつぶすほどのもの。

「ないわ!! このままお山のうえに行って、きぞくとおっさんの家にとまるなんてないわ! ないない!!」メアリの行動は慌てながらもためらいがない。

 土手を斜めに降り、草むらに隠れ、民家の壁を器用につたってあっという間に消えてしまった。(よほど嫌われているんだな)おかしみが湧くほどだった。

(彼女なりの仕方でやってきたってことだな)と彼も素早く勝手に納得することに決めた。そうでなければ仕事に遅れるから。