モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

初陣



「首を斬るんじゃないのか」声を低めつつ訊いた。旗を下ろされた。

「暇がない。貴様なんぞの道連れは嫌いだ」ガーグレンが更に低い声で返す。

「戦いになればこの旗で兵を集めて守るのだろ」ガルーフは馬の脇を指差す。

「救いようがないな。ヒューマンのこすい目付きをバランの聖旗に集めて今現在に何の意味があるか」とガーグレンの指が目立たぬように動いた。指すべきところは絶壁の遥か上のみ。

 オークの射手の隊への命令も兼ねていて矢つがえの音が軍後方へざざっと伝播してゆく。「ヒューマンを殺せ。兄弟を守れ。貴様の大口の中身もいい加減に見せてもらおう。できなければ何回でも殺してやるからな」


「弓は軽い。だがやれない」ガルーフは今日も逆らう。「さっきから無理な高みに指を向けているな。崖から矢が降り注いでどうして兄弟が生き残れる。それどころかオークの矢が落っこちて来る」最悪の笑いが牙の隙間から漏れる。「いや、岩でも落としたほうが早いな。何故まだされていないんだ」


 昂ぶるままに叩きつけられる言葉をガーグレンがはじく。

「弓達者は確実におるわ。吠えるだけの能なしとは違うぞ。軍を軽んじた者には必ず制裁を加えてやるから楽しみに待っておれ」ガーグレンが駒をそろそろと引きながら語る。

「全員届かせろ。これで何でオークが一方的に滅ばない?」大股に歩いて、ガルーフ。

「巨大ネズミの肝が小さいのは貴様を見ればよく分かる」ガーグレンが口を歪めて若き従者を笑う。「あれほど切り立った崖に軟弱ヒューマンはそうそう登れぬと見られておる。だから落石計なぞ小利口の空論にしか過ぎんわ」オークの鼻のくぐもった笑いがガルーフに聞こえた。

「お前こそ怖がっている。いや皆の身が固い。毎回どれほどの兵がいなくなるというんだ」最後の一言で声を潜めた。

 ガーグレンが一息に近寄ってガルーフの胸倉を捕まえた。歩きながらだというのに軍服の襟に非常な力が入ってきた。気管の不快な歪み。

 ガルーフは一旦目をそらした。行進の後ろを眺めてみた。オークたちの粗末な兜は天頂に気をつけるたびに汗で容易にずれてくる。兵はこの世の邪悪の根源のヒューマンと矢を交差させる前に困憊を極めていた。


 ガルーフは大将の顔に向き直って、

「こんな大軍でわざわざ山の檻に入るのがおかしい。いっそ間道の地図を作り小分けに山を攻めたらどうなんだ」

「ブルグナの側に登り道なぞ無い」

 若きガルーフは食い下がる。左手の得物をガーグレンに突き付ける。「未熟者によい弓を持たせてみろ」周囲の士官が従者の狼藉を咎める余裕さえないのだ。

「だから山向こうのヒューマン国を目指し取りにゆくのだろうが! 素晴らしいロングボウも、道案内の奴隷もだ!」

 ガルーフは立派な牙を折れよとばかり軋ませた。