そしてケフル軍の陣。確かにダグデルの砦を引き払ったものの、ヒューマンたちは未だ武器を構えてオークの踏み歩こうとする途上に待つのだ。 陣中のエ・ガルカの心は逸ったが、戦士の沈着と騎士の礼を持つ人物である。深夜に甲冑を踊らせても響きは低かった。 幕の前に立って、主君のまどろみを解く声ははっきり高める。 ファンタール卿はしかし深夜の睡りと無縁であった。 「単に眠る気が起きなかった。変わった予定を立てた子供と同じ。ガルカを待ちわびておった」 「そのような。なれば息子どもと過ごす朝のような無礼でした」深々恐縮する。 卿は急かした。ならば続けよ。 ――オーク軍は全体に炊事を開始。 卿は唸った。「早すぎる」 「確かです。過去の戦歴とくらべるに非常な量の白煙が立ち上ぼりました。卿の贈物に堂々手をつけたのです」 「なんと図に当たる。敵ながら何を考えておるのか?」 「彼らに裏はありますまいが……。双方素直に喜ぶのがよろしいかと頭では思います」 そう言ってエ・ガルカは警戒した。背後の騒々しい足音を耳にした。ファンタール卿もその方向へ叫ぶ。「何か」 興奮した声で返答したのは騎士のレイランドであった。若さを力に変え、白銀の騎士たちの隊長を勤めている。招き入れられて銀の鎧が蝋燭の明かりに鈍くきらめく。勇士は新たな報せを届けた。 ――ダグデルに黒煙上る。 |
|