《拝啓 エルサイス様 そろそろ旅立ちます。 シグちゃんあたりを連れていこうと思ったのだけれど、暇がないみたい。 何を書いたらいいのか上手くまとまりません。 ただひとつ、貴方をお慕い申し上げるがゆえなのです。 とか書くと旅先で死んじゃいそうな雰囲気だよねえ……。 ロマンチックだけどあたしは得しないじゃない? ああそうだ、サーラには絶対この手紙見せないでね。 今けっこう考えてみたんだけど、ユリン様は啓示をくださいませんでした。 気の利いた詩をはさめなかったのでもう出立しようと思います。 敬具 貴方のロリエーンより》 サーラは手紙を静かに返してエルサイスの執務室をあとにした。足音をだんだん大きくしてつかつかと彼女は進んだ。 「きゃ」勢いに乗っていたサーラはしりごみした。背後の壁を蹴って止まるのははしたないことだったが、木の廊下は彼女の片足を音もさせず受け止めてくれた。 エルフにしては堂々とした体躯の者がサーラと相対する。 「ダムド」サーラはドラゴンファイターの隊長に声をかけた。「シグルドは? 変わりない? ああ、ぶつかってごめんなさい」 「彼なりに張りきっているようだ。開戦間近だから体調を整えてもらうほうが有り難いと思うが。ぶつかってはいないぞ」 「ちゃんといるのね、彼。他になにかあったの? 報告でしょう」 「ずいぶん話を急ぐな……まあ参謀にも伝えられることだ。ロリエーンがいない」 「ああそう……」 「毎度のことだが聞いてくれ。あれが調練場に現れないので、あれの担当する兵たちが家を訪ねたそうなんだが」 「そうでしょうとも」サーラは中座したがっている。「シグルドも本当はいなくなっているんじゃない? あなたどう思う?」 「ロリエーンがらみの事柄なのか? 落ち着けよ」「手のこんだことを好むのよ、彼女」 「平の突撃兵なら姿を消せるが、シグルドとて隊長だぞ。ロリエーンとはわけが違う。そんなに気ぜわしくするな。ナーダの生き方のほうが上手に見えてくる」 サーラは笑って樹木の壁にもたれた。「妹さん、大物だものね。ダムドは寂しくなるでしょう。恋の心を先に射止めたのはナーダかしら、ラスィかしら」 |
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