モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

25.帰途



「酷い、悪趣味、鬼畜、おっちゃん」こんな悪口を繰り返し聞かされている。

「静かに漕げないのか」キマールがたしなめれば、ノーラはその金の尾を不機嫌そうに振ってよこす。

「ゴブリンたちが怪我した分、せめて心の傷として痛みを受けるといいにゃ」

「わたしたちを殺しにかかった連中に大金貨を恵んでやったのだ。本来なら釣銭をせびるところさ」

「あたいは邪悪なおっちゃんを黙って送ってあげてる。一番優しいのはあたいだね。お屋敷はどっちだったかにゃ?」ノーラたちの自転車は夜道を駆ける。既にシャーズ街へ入っており、キマールには悪口をたっぷり耳に入れた甲斐があったらしい。

「いいや、海軍提督の令嬢をお送りしているのはわたしさ。シャルンホルスト邸へ向かってくれ」

「えらそう……。ううん、歩きで帰るのは危にゃい。ここぞとばかりにのら犬亭の奴らが後をつけてるかもよ。あたいは何が起きたってさっさと逃げられるんだから。こいつと夜目があればね」ノーラは自転車の漕ぎ板から足を少し離して車体をぱんぱんと叩いてみせた。

「わたしがお屋敷のお父さんに馬車を借りるだけで済むじゃないか。足代が払えなくなったわけじゃないぞ。不逞の輩がいるなら一番守らなくてはならないのは誰だ? 分かるかね、無謀でおてんばな御者さん」

「う……おっちゃん、親父に言いつけたいだけでしょ」ノーラの尾が振れる。

「ノーラ嬢はその逆かね?」

「そりゃ決まってら……ぎゃあ! そういえば買い物も全部忘れてた! あたいの生涯もこれまでか」ハンドルから片手を離して顔を覆っているらしい。

「やれやれ。昼間そんな話を聞かされた気がするな。夜が明けたらわたしの家の者を使ってもいいぞ。遅れた分を補填してやってもいい。責任を分担してもいい」

「詳しくは機密事項だって言ったでしょ」

「ほう」キマールの双瞳が光を帯びた。シャーズの瞳は夜を迎えて黒々としている。既に天空は二つの月マーアムルとブルガンドが美しく並ぶ頃だった。

「余計にゃこと言っちゃった……」

「ま、今日の出来事は材料として使うだけさ。久しぶりに提督殿と話がしたくなったよ。お互いどんな顔をしていたか色々と確かめたいね」

「またきたにゃいこと考えてるんじゃ」

「酒の肴のことを言っただけさ。とにかく久しぶりに体を使った。お家に入れてくれるかね」

「せめて精一杯楽しく食事をしようっと。あたいも腹減っちゃった。キマールのおっちゃんと言ったらあのお酒だよね。もちろんお家にだってあるよ。にゃんだったっかな」「全然覚えていないじゃないか」ノーラは針路を決めた。

(つづく)