「無理してあがらなくともさび抜きを買ってくるよ」水兵のノーラは支給食を受け入れようとするも、蓄積される辛味には耐えられない。けれども、「お水さえあればいいって言ったでしょ〜〜」と顔を非常に歪めて言う。キマールは立ち上がりノーラに背を向けた。馬車の椅子を開ければ壜が並ぶ。 「お酒でもいいよぉ」「わたしを騙したのかね?」キマールは椅子を閉じたくなった。「んなわけにゃいでしょ〜〜」背中に聞くだけで涙にむせぶような声をしていたので、振り返ってノーラに壜一つと鉄のコップをくれてやった。シャルンホルストの娘はコップには構わなかった。堂々たるラッパ飲みをしてのけた。 ノーラは自らの舌が欲するだけ瓶の中身を空けた。舌と口を十分冷やしてから、「なーんだ。ふう」「メルド河の清水は旨いだろう」「まるっきり味がしない。最高だね」「水割りを作ると最高の最高になるね。お嬢さんには関係ないがな」 ノーラはメルド河の助けを借りて昼食を済ませられるように見えた。 「どうしても食べきれないかね?」「わさびだって好きになったよーだ。騒いでゴブリンに迷惑かけたからさ」ノーラは屋根の板を見上げた。「おっちゃんのも分けてよね」折り詰めの中身を覗いてくるのだ。 「おいおい。勝手に物を寄越されたらゴブリンだってかえって迷惑がるだろうが。子供だな」 「子供だよ。でも上の者は下の者に余裕を見せるもんなんだ。そうしなきゃキャプテンにゃなれない。おっちゃんは優しいお貴族様で、お客のわがままを聞いてくれるだろ」 屁理屈だな、とキマールは言うだけ言う。割り箸をさかしまに手つかずのネタをシャーズの小娘へ差し出さざるを得なかった。 ノーラは窓枠から片腕だけ出すと次に勢いよく両脚を突っ込んで逆上がりした。「あんがとさん」と声だけが残った。 「おい!」あまりに素早くて驚かされたが、ノーラは蓋もせぬ寿司をこぼさなかった。 馭者たちが再び驚き慌てる声が屋根を挟んで響いている。ごとごと、ノーラが這う音がして次はゴブリンたちの恐縮の言葉が響いてきた。キマールは黙って残りの食事を平らげる。 そうこうしてノーラも降りてきた。馬車の外へ着地した。「じゃあおいとまするね」 「お父さんの所へは連れていかないから、買い物に馬車を使わないかね。かなり便利になるだろう?」 「なんでそこまでしてくれんのさ? エルセアのヒューマンをやっつけてきたばかりで、議会ちゃんに凱旋の報告をするんじゃないの? ありがたいけど、あたいはそれ持ってきてっからさ」馬車のそばを指したらしい。キマールは窓にぐっと身を寄せた。 先に細長い台車を立て掛けていたのだ。キマールは扉を開けて馬車から降りた。 |
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