モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

1.シャーズの帰還



 のんびりなどしていられなかった。キルギル、ゾラリア、エルセア、ブルガンディ。昼夜を徹し南から北へ。帰り道もカスズ王家が馬車と快速艇を用意しており、陸と海を跳び越えるがごとき旅を演じさせられた。乗り物の旅は自分の体を動かせぬ分の疲労というものがあるが、シャーズの上級貴族キマールは自分の部下だけに音を上げさせている。久方振りの故郷を目指す長い長い待ち時間の中、自身の回想を黙念と反芻して楽しんだ。

 ヒューマンの集まるメルキア地方で最も権勢を誇る貴族のマクネイル大公とキマールは会談を持った。言葉の応酬はあったけれど、シャーズのざらついた舌は美酒に潤った。後はそれぞれの地元で準備を進めて約束を果たすだけなのである。

 ブルガンディの議会においてどのような笑顔を作り、美辞麗句をもってどんな風に議員の心を操るか、飽きずに空想を繰るうち、キマールは故郷の火山島の土を踏んでいた。モンスターを避ける航路が変わらず正確に運用されていてキマールは更に機嫌を良くした。

 当然港には馬車が用意されており、キマールはもう一息と意気揚々乗り込んだ。

 車輪があまり回らぬうちだった。窓の外にめざとく見つけたものがあった。キマールは昼間に細いシャーズの瞳孔をきらめかせた。

「シャルンホルスト提督」正面から親しげに声をかけると素早く決めて、キマールは馬車を待たせて自分から降りた。

 彼は私服でいて、風変わりな荷車を押していた。荷は積まれていない。

「げっ親父? どこにいるのかにゃ?」彼は慌てて頭を振ったのである。軽く絞った水夫頭巾からたっぷりこぼれている金髪が波打って港町のからっとした陽射しに映えた。

「あっ? 女か」黒コートをつけておらぬ違和感はあったものの、雰囲気はやはりそっくりだとキマールは思った。

「ええと。ご令嬢かね」

「うん。あたいノーラだよ」少女はシャーズの細い瞳で答えた。