背丈低く手足短いゴブリンは戦いに不向きな種族である。団結した彼らが中年と少女の二人に殴りかかっていく。二人のシャーズはそのたび、大股にさっと歩いてかわしてしまう。小器用である。 対して、シャーズの片割れにも思うところはある。久方ぶりのブルガンディの路地裏。そこで粗末な馬車に道を塞がれているのがキマールの癇に障った。目の前は馬車、左右は壁、背後は知らぬ建物。 シャーズが大股にかわすのが精一杯なことが腹立たしい。戦いの舞台はきわめて狭く、我々のしなやかな動きを阻害する。――再び目線の下からゴブリンがつっかかってきた。キマールは自らの立ち位置をずらす。その足でゴブリンを牽制した。当たらない。 隣のシャーズの娘を気遣えば、ノーラは「にゃん」「にゃん」といちいち声をかけて飛び跳ねている。かちゃかちゃ。腰に下げたレイピアが主人と仲良く振れている。 「お嬢様、余裕があるのか?」「うーん、半分くらいならやっつけられるかもにゃ?」そこへ、会話を立ち切ろうとむきになったゴブリンの若者が飛んできた。 (ノーラ提督、再度戦いの要請か……)キマールは両の掌底を突き出した。どんっ、と大きな音がしてゴブリンの若者がキマールの体躯に負けてひっくり返った。 「やっほう」初めての打撃の瞬間を目に入れることができてノーラは快哉を叫んだ。中年太りした味方に期待をあまり振り向けていなかったようで、彼女の細い猫の瞳は輝きを増した。 突き飛ばされた味方が派手に地面を転がったので、大勢のゴブリンはたじろいだ。 手頃な空間ができたと見るやキマールは技を使った。 踵を返して建物の方へ走った。据え付けの扉があるのは観察済みであった。 キマールは扉を開かない。跳ねた。把手に足がかかるとまた飛ぶ。二階相当の高さにしがみついた。 「あ、あ、あ」ゴブリンたち、そしてノーラが呆気に取られた声をキマールの背中に浴びせている。 高い建物だったが、窓は開けられていない。両の腕のみでぶら下がるキマールは体力を消耗していったが、突然ぶら下がった体を振りはじめた。反動をつけ、横にそびえる壁を飛び越えてあっさりと別の敷地へ消えてしまったのである。 ゴブリンたちがひたすらにわあわあ言っている。ノーラはぽかんとしながらも足をかけられた扉を観察した。把手は崩壊していない、シーフの軽業であった。 「そりゃ凄いけど、あたいはどーなるんだ!」 |
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