「おっちゃんだって何曜日か分かんなかったじゃないのさ。貴族はさ、陸をほっつき歩いて毎日大ホールでダンスしてサロンでお喋りして小銭を稼いでやがるんだろぉ。親父が言ってたぞぉ」ノーラはキマールを指差してまでまくし立てた。 「そのやかましさ、確かに父娘だな……。わたしは海を渡って来たばかりなので念のため聞いただけさ」 「へーっ。船旅、いいにゃあ。どっから帰って来たの?」 「エルセアにしばらく居たのでね」 「ヒューマンの国!? わかった、戦争をしてるとこに偵察に行ったんだ。かっこいいね」 「そうさ、おじさんは間諜だよ。学校をさぼるような子は好都合なんだよ。さらっても気にされないからね」 「うげっ、話が戻って来ちゃった」ノーラも渋い顔に戻った。 「国家機密だからね。さあ、触れるのはもう勘弁しておくれ」心からそう願いたいとキマールは思う。貴族はふと自分の帽子を被り直した。上質な着物もこの港口の熱気を帯びたのを手に感じた。先程この娘に自分で名乗りを上げて近付いてしまっていたから、このいでたちと合わせて注目する者がいるかもしれない。この港の無数の往来人の影から何人が我々に視線を注いでいるだろう? キマール自身がかつて立ち回ったブルガンディである。こんな虎の子みたいに騒がしい娘に引っ掛かるのではなかった。「とにかく馬車へ入る」 「親父のところへさらうなんてよしてよぉ。学校行かなくていい、って行ったのはあの上官どのなんだから。今日出歩いてんのもおうちのお手伝いだよ。お買い物」 「シャルンホルストが!? まさか」とは言ったが、ノーラを疑う意味合いではない。「どんな物を買うのかね」 「そりゃあたいの機密だよ」 「まぁ、ともかく馬車に入ろうか」 「しつっこいんだから」 キマールは手にした二つの箱を掲げた。「お寿司が悪くなるだろ」「忘れてたあ」 |
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