モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

21.魔術と冒険者



「先に言っとくけど」「あたい、魔法に感動してるんだよね。だから、けど……もう当てるのはやめてよ、ねっ」

 ぜひ《ポイズンウインド》を当ててやりたいところだ。しかし、けしてシャーズの新兵器から降りようとしないノーラには魔力の無駄使いでしかないだろう、とゴブリンのコーモは既に諦念を抱いている。

「もういっちょ褒めるけど」「そんな信じられにゃい特技があるならさ、普通に働いたら稼げるんじゃない? シーフなんて割に合わないよ、あっはっは」シャーズの小娘はやたら嬉しそうで大きな声を立てた。

「馬鹿ぬかせ。俺の魔法は大陸一だぜ。小物は誰もよりつけないんだ」コーモは手を振った。ノーラは思わず首をすくめた。

「うーん、にゃるほど。じゃあ、ブルガンディの外で漁でも猟でもしたら。ひとを狙ってた分、モンスターに思いきりぶつけてやったらいいじゃん」

「大陸一強力だと言ったろ。強すぎて痛んじまう」

「うーん、そっか。じゃあ、冒険者になったら。モンスター退治のクエストさ。冒険局で登録すんだよ。あたいは学生だからよくわかんにゃいけども」

「馬鹿にするなよ。シャーズの生意気娘よりは考えてたさ。まず職業の登録に手間はかかるし先立つものもたくさん要るんだ。ヒューマンに食い物にされるだけだろうぜ」

 ノーラはうろ覚えで知識を総動員している。「そういう所は最初だけきついんだってば。借金すりゃいいだけ。魔術士君にゃら一回で返せるよ。入学しちゃえばこっちのもん、でかいつらして給食かじってればいいんだよ。いや、保存食の支給だったかにゃ?」

「シャーズから借金だけはするなと親父に言われてるんだ。お前たちに刺身にされたかないね」

「ごめん、ごめん。よく分かんにゃいけど」

「俺たちゴブリンの誇り高い魔術が理解されるものか」

「それなら分かった。また親父に出動命令が下りそうだよ。ノルドン地方は気の毒したね」

「何者なんだお前は?」貴族とつるんで、やたらに強いところを見せたシャーズの水夫の少女をコーモは呆れつつ見た。頭巾から飛び出た猫耳が少し垂れていた。

「内緒、内緒。あたい割と立場があるんだから。でも話を合わせると忠告した方がいいとも思ったね。ブルガンディを引き払ってこれからは真面目に暮らした方がいーよ。立場から言ったよ」

 コーモは「黙れよ」と、一斉にざわめき立てた舎弟のゴブリンたちに言う。目の前の悪がきは信用しないが、あの太ったシャーズの貴族がどんな運命を迎えたかは重要となろう。

「あたい、一度忠告したらすっきりして忘れちゃうんだ。そろそろ暗くなりそう。じゃあ、帰るね」ノーラが踏み板を回転させれば古代の自転車は飛ぶように駆ける。コーモたちは舌打ちしつつ見送ることになった。

 自転車の上のノーラは泥棒とセテト神を讃える歌を口にして、歌声は飛びすさる風景へ消えてゆく。