「わーっ」どよめきがあって、大きな人だかりが動く。 「おっちゃん」傍らで袖を引くのはノーラだった。 「うむ」二人は動く人だかりを眺める。 そこから悲鳴がして一人のゴブリンが弾き飛ばされた。何事かわめいて熱狂の塊の中へ戻ってゆく。 「怪我人が大勢出てそうだよ。えげつないにゃいことしたもんだ、おっちゃん」 「わざわざ見に来なければ良かったんだ。落ち着いたら寄付金が奴らのポーション代になるさ」 「ゴブリンが大金貨をどうやって換金すんのさ。騙されて取り上げられて悪くすりゃ逮捕だ。そこまで企んでしたくせに」 取り巻いた観客たちがアシャディの転がった場所を指し示して、様々な種族の叫び声がこだまする。 「そうなってはくれないかもしれんな。現場へ戻ってみて分かった」キマールは観客の一部の数人を指差した。 「あっ、髭」背はゴブリンよりは高いくらいだが、がっしりした一流の戦士の身体。 「業突くなドワーフが仲介を図るかも知れんぞ。ヒューマンは親シャーズ派としてブルガンディに権勢を振るっているので、取り締まりを行わなくてはならない。分かるかね、ノーラ。誰も表立っては動けないということさ。だから衛兵も来ない」 「うーん、大人はきたにゃい。シャーズもこっそり商談を持ちかけるってわけ?」 「というより犯人はわたしだぞ? 我が同胞が奴らにのこのこ目を細めて近付かないよう祈ってくれ」 「本当にひどいおっちゃんだ」 キマールは先の話に出たドワーフのゴルボワの顔を思い出した。(西に富が流れることだけなければ良い……。そういえばガルテーのそばにはコボルトの森もあったな。奴らも鉱物に聡い種族だった) ゴブリンが人だかりの内外で殴り合いをしている。 |
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