モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

12.シャーズ、窮地



 ノーラは自転車から降りて手で押し始めた。キマールが後へ続く。

「おっかしいにゃあ〜〜。いつも普通に走ってたのに」「やれやれ」キマールは嘆息した。周囲を取り巻いたゴブリンたちの指示を受け、シャーズふたりと自転車は囲んだ馬車とともに歩かされていた。

「そりゃさ、この自転車は真っ先に目を付けられたけど、あたいが大暴れかまして通行許可もらったと思ってたのにさ」混雑しはじめたブルガンディの雑踏。ゴブリンたちの用意した罠の馬車と馬車の間で、彼らとシャーズは密着せんがばかりである。「そうそう、あたいがぽかりとやって、それからこいつで逃げ回ったり戦ったりさ、あんたら本人?」彼らの悪口の声が高まるのを聞けばキマールにも武勇伝が真実と分かる。「やれやれ」

「まずは従うっきゃないよ。今は誰も暴れられないからね」「なるほどな」初めに自転車の速度を捕まえなければならないのだからゴブリンの側としてはこのやり方が正しいのだろう。シャーズ、またはヒューマンの衛兵だってよく往来するし、「盗る側と盗られる側、どちらか早まった側が一瞬で潰されるな、これは」キマールはわざと口に出して言った。シーフは手狭な場所に強い。体の小さなゴブリンは単純に弱かろう。ゴブリンたちの罵倒は一斉にキマールの方を向いた。

 水兵のノーラは、「そんな残酷なこと言わないの」と言った。彼女のしもべの自転車がきいきいと同意している。


 ゴブリンたちはキマール、次いで自転車を指し示し、それから自分たちの馬車を指差した。

「親切に乗せてってくれるってさ」

「行く先は指定できないんだろ? おまえたちは物が言えないわけではあるまい」キマールはゴブリンたちの尊大な振る舞いに不快感を隠さない。

 三方が高い壁になっているのが良くない。左右は出入り口のない壁で、視線を上げればどちらも建物の敷地であることが分かるが、生命感のない陰鬱な雰囲気を持つ。

 キマールたちが背にさせられている建物は扉があったが、わざわざこの場所を選ぶからには何も期待はできない。ここから更に案内を受けるのだから、ゴブリンたちにとっても重要性はないか……とキマールは思う。

 キマールたちが来させられた道は当然馬車が塞ぐ。通行人の目に何も入らなければ、見てみぬふりをしやすい。

「やっぱり、おっちゃんが目立つからこんなことになっちゃったんだにゃ」うんうんと、傍らでノーラが得心しはじめた。

「お嬢様のお誘いを受けるのではなかったよ。わたしの身のついでにノーラの宝も狙うらしいな」

「ちぇっ、あたいが一番見下げられてんのか」

 シャーズの無駄話に業を煮やしたゴブリンたちが包囲の輪を狭めはじめた。

 わっ、とキマールが声を上げてノーラにぶつかった。「うにゃ」シャーズの娘は中年太りの肢体に顔をしかめたが、不自然な悲鳴の次に聞くものがある。

(わたしは逃げるがついてくるかね)

 か細くシャーズの耳にしか届かない。

「にゃ〜〜」ノーラも怖がってみせ、(あたいのお宝を囮にすんの!? 戦おうよ、このくらいの相手!)

(わたしはシーフだから得意なことをやるさ)

「にゃ〜〜」(にゃさけない)