モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

10.のら犬亭



「飼葉や馬洗や小屋掃除が要らないんだから。こいつってば偉いよ」ノーラは自転車に近寄ってぽんと叩いた。きいっ、とキマールのシャーズの耳に障る金属の鳴き声がした。

「むき出しの骨が折れてしまいそうな馬だな。買い物、手伝ってあげようと言ってるのに」

「いいって言ってんの。これを馬車にくくり付けたってさ、お店に寄った隙に盗られちゃいそう。ゴブリンは親衛隊にゃなれない。ブルガンディには走ってる馬車を襲ってくる奴らさえいるって知ってた? ノーラの宝は世界にひとつの目立つ代物なんだから」

「のら犬亭の連中か。ノーラも気を付けなさい。古い建物は取り壊すべきなんだ」

「わんこ? あいつらコボルトだったのかい?」

「ヒューマンの薄汚い連中だ。しかし黄金さえ積んだならどのような相手にもどのような盗みの技でも見せる。ひたすら技巧を凝らすだけの誇りのない下衆な連中さ」

「取っ捕まえたらどうなの。これっておっちゃんの管轄じゃあない? のら犬亭って建物の名でしょ」

「ふん、そうだな。場所も分かるし派手な仕事も知られている。すぐにでも逮捕できるはずなんだ」古き日ののら犬亭はヒューマンとシャーズを主とした盗賊ギルドの窓口とされていた。しかしブルガンディで急速に勢力を伸ばしたシャーズは自種族のシーフを公的に取りまとめることに決め、その反動を受けたのら犬亭は吹きだまりのような所になった。

「あたいが囮にでもなったげようか」毒を有する吹きだまりにも吹きだまるだけの理由と価値があるとキマールは思っている。

「ノーラはその自転車とやらを盗られないよう気を付けていればいい。しかし、ノーラひとり乗せるのが精一杯みたいなものを狙うとは思えんがね」

「そんなことないよ。こいつ速いんだから、漕ぎ手以上の力が出るってことだろ。例えば親父の戦艦のちっちゃい舵輪は船のしっぽの大きな舵を動かすよ」

「わたしもそれくらいの知識はあるぞ。船には巨大な滑車を用いるが、ノーラの宝はそう見えんね」