同じ血から生まれ、同じ食物を分けて、同じ時代に生きる。むしろ相手のことが分からなくなったから、そんな意識が日増しに強くなる。 北のケフル国とブルグナ国の諍いの内部に異変を認めてからというもの、学校活動もまた変化を余儀なくされた。各教員は総動員され昼夜を問わず情報を集め、研究にいそしんだ、そして討議は未だに終わりを持たない。 そうした動きにただ一人逆らう、というよりも普段の行いを決して改めないのはあの女性だ。仕事を渡せば確実に成し遂げるものの、このような時勢に易々と下山する。いつもどのような分野の代償を支払っているのか知れたものではない。 彼女そのものは問題ではない。彼女と、この自分を盾に取る者がいる。「それを代わりに確めてやっているんだ」問い詰めたとき彼は確かにそう言った。自分は言葉を返す前に怒りを発したらしい。奴は身じろいだ。自分が齢を重ねただけなのを気づくのは情けないことだが、それ以上に彼の、後ろ暗い情熱が気にかかったのだと思った。 そんな終わりを持たぬ思考を闇に佇む者は行なっている。 長らく闇のとばりの下りている玄関にごく小さな明かりが灯った。パイプのごく小さな赤き灯だった。彼の同居人は部屋に安らかな眠りを湛えている頃だろうから。 「モンドールめ」煙を吸った口でウルフは呟いた。紫煙は魔術士の口と煙管の輝きから離れるとすぐ闇に溶ける。 紫煙の刺激は変わらぬ旨さを湛えていたが、ウルフは咳き込んだ。弟の名前を呟いたのが良くなかったか、煙を吐きすぎたか。 彼らのかけがえのない存在がこちらにやって来るので、ウルフはばつが悪い。 |
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