ノーラは自分の運んでいた細い荷車を馬車に横付けするとなんらかの操作を行った。キマールには詳しく分からなかったが、固定を行ったように見えた。 「わあ涼しいんだ。どうなってんのかにゃ」ノーラは馬車の中を珍しげに探った。 「木材の組み方が肝要だとか聞いたな。エサランバル周辺の様々な木で作られているらしい。ヒューマンの商人から聞いた。しかしエルフたちは自然をいじめていると理由をつけて独占していると聞く。鼻持ちならんね」聞きながらノーラは興味津々で、座席の配置と逆さまに座ったり立ったりしたので、彼女の尻尾がキマールにとって非常に邪魔なことになった。 「こんな良いものができるんなら全国にわけたら便利だよねえ」 「ちゃんと座りなさい。ノーラは尻尾がうるさいし、口からはにゃあにゃあとかしましい。お父さんからさぞかし怒られているだろう」 「ううん、シャーズは尻尾をこそこそ隠さずシャーズらしく生きろって」 「変なところ甘やかしているんだな……」黄金の髪と黒コート。カスズ海軍一の猛者・シャルンホルストの姿を不意に思い出した。――ほふった大ゴブリンのどくろを船長帽に貼り付けたよ――。戦勝ののち、シャーズっ子の間で歌われるようになった。エルセア在住の頃受け取った報告のうち、初めに目に止まった箇所である。 「ほどほどにな。お嬢さまの貰い手がなくならないように」 「やだにゃ。おじさんおばさんはすぐそんな話するんだからさ。いよいよやばくなったらおっちゃんが貰ってくれたら良いよ」ノーラは白い牙を見せて笑った。 「子供は他愛ないことを言うね」 「あたい、良いご縁のとこにお嫁に行かされちゃうんじゃないかって思ってんだよね。偉大な親父だからね、影響力とか分かってんだから。あたいだってね。おっちゃん、奥さんがいたってさ、ゴブリンの女中に手を出してるじゃん。あんな気楽な感じがいい。あたいお嫁に行ったって自由にやりたいんだ」 狭い馬車の中にキマールは飛び上がった。「ノーラは分かって言ってるのか!? わたしはそんなことしておらん! 他の誰かと間違っているんじゃないのか」 |
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