「ええ!? どういうこってすか」グロールの大声に襲われたガルーフは人差し指を伸ばして耳の穴を塞いで防御した。 「どうもこうもないだろ」ガルーフは鞘に収めたままのサーベルを使って地面を叩いた。「この地下からお前たちと組んでヒューマンのご馳走を見つけてきた時点でオークの運命は決していたんだよ。ヒューマンの大将たちの腹の黒さはそりゃあたっぷり見物してきたが、表向き悪いことは全くしていないんだ、あいつらは。俺たちは綺麗に並べてあったおやつを食い散らかして仲間内で喧嘩を始めてしまった。勝手にな。しかもヒューマンは話はもっとあると言っていた。ガーグレンの奴は捌ききれるのかな」 「お前は一体何者か!? さっきから!」グルルフは部下のことを忘れるほどふためいている。 「俺は無駄飯食らいだよ! いつもお前たちより一食余計に喰ってる気がする。ヒューマンの釜の飯なんざ吐き出してやりたい」しかし舌に乗せた異国の安らぎの味わいを若者はもう忘れることはできないだろう。 吟遊詩人は讃えはじめた。地底探検やヒューマンの陣へ赴く冒険心、オークの最前線の中でも大きな勇気を持つ人物であると。「なんだいきなり」ジングの即興歌を耳にして、ガルーフはオークの固い頭髪をかいた。 「お前は、あなたは、ガルーフ殿?」グルルフが片膝をついた。「いきなりなんだよ。俺は偉くない。しかも素直に信じすぎじゃないか」 「態度が死ぬほど悪いぶん行動力が並外れていると将軍から伺っていましたから分かります」「ああ、そう……」 「時間の無駄はよして将軍の元へ早く参じましょう。報告が手助けになります」 「事情は変わりゃしないと言っただろ。諦めておけ。ガーグレンも強靭な奴だから大丈夫だろう。たまには将軍がいじめられるのも面白いぜ。それよりグロールのほっぺたの方が大切さ」 「そういえば痛かったんでした。いたた……思い出すときつい」――物資分配の取り決めに関する議論はものの見事に行き詰まった。グロール食糧官は同じ発言を違う言葉に変えて使うような時間稼ぎを試みた。しばらくすると知らぬ顔の士官が当然のように接近してきた。誰かと思い出すことはなかった。頬を張られて視界が大回転した。 ガルーフがペガサスを引っ張ってきたのでそれに甘えるままグロールは騎乗した。いつの間にやら赤い頬は痛々しい様相を帯びていた。 「今度はのんびり行ってやるから脱走だなんてけちは付けるなよ。俺もだいぶのんびりするつもりだ。将軍にはダグデル最強の武勇伝に期待しておくからな」ガルーフとジングは馬を囲んでそぞろ歩きを始めた。 「おい、ちょっと待て! 事情をよく聞かせてくれ! ちょっと!」 グルルフは思う。ヒューマンへ放った使者の持ち帰ったのはあまり良い知らせではないらしい。その知らせをグルルフが持ち帰って、ガーグレンや集結しつつあるブルグナ精鋭の指揮官たちの前でひとりで報告するのは同数のモンスターと立ち回りを演ずるよりも難度が高いのである。グルルフは連れてきた部下へ命を下すのも忘れてガルーフたちの後を追った。 |
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