「さ、さっきから血の匂いがすると思ったら」「こいつの方か」犬の兵士たちが吠え立て始める。 「なんや! これはうちが自分ですっころんで血ぃながしただけで、武器はかんけいないんや!! ほんまや で!」 「本当だからきっちり取り調べてくれ。お前も大人しくしていたら潔白をわかってくれるさ」ヒューマンの子は恨み がましい目つきで、悠々とした親を睨みつけるのだった。 「もー、髪の毛ひっぱらんといて! あんまりらんぼうにしたらそっちのぶっといゆびにささるで! こう、身をまも るために縫いこんどるんやからな!」メアリは闇の中コボルトの鼻息に囲まれて虚勢を張るのだった。「気をつ けて、探れ」「毒に中たるかも、しれんものな」「そこまではしとらんわ」 「もう! なんで全部さぐりあてるんや!」「隊長、凶器、五本発見しました」「末恐ろしい。やはり、ヒューマン は親子連れも油断してはいけない」 「まぁそう言わんでくれ。こんなモンスターがひしめく土地を親子で渡るなら子供も腕っぷしが要るのはわかるだ ろう?}親のゴランは口を開いた。 「貴様も、腕が立ちそうだ」 「同じことを言うだけさ。ここまで商売に来るにはちょっと力がいる」メアリのじっとりとした視線がまとわりついてき た。(呆れて物も言えないでいると助かる) 「まあまあ、夜中に困ってるお客様を疑っちゃいけませんよ!」 「わぁ! ちっこいおばはんや。かわええなぁ。うっぎゃっ!」風向きがよい方向に変わりそうだったので、ゴランは メアリの頭に拳骨を降らせた。 「むっ、女将」「この兵隊さんがご報告があるみたいですよ」ノームの女が暗闇にランタンを下げていて、コボル ト兵をひとり連れてきていたのがゴランたちにもわかった。 兵士は彼女に礼を言ってから同胞たちに敬礼する。(たぶん、若者なのだろうな)ゴランは毛むくじゃらの顔 に感想を抱いた。 「申し上げます! 哨戒を一旦終えました! このヒューマンら以外に目立った動きは見られず! モンスター 数体を認むるも、全隊員無事に逃げおおせました!」「見逃してやったと言え」「見逃してやりました!」夜半 の高らかな報告は終わった。 (昼間のあいつみたいに裸で出陣していったのかな。なら怖くてさっさと帰ってくるだろう) 「おい」隊長は別の兵士を呼びつけた。 「あら。返してくれるんか。おおきにな」メアリは暗がりで手のひらを覗き込んで、自分の極細の針が五本揃っ ているかしっかりと確かめた。 「我らの居所で妙な真似をすれば、酷い目、遭うと知れ」メアリはしっかり聞いてほしいものだとゴランは思っ た。 「へーへー、おおきにおおきに。ご苦労はんやで」 「なあ! さっそく頼まれてくれてええか!? あ……も、もう放免やろ?」メアリは自分とだいたい同じ姿のノ ームに近寄っていく。「はいはい、可愛いお客様」 周囲でまだ珍客たちをじろじろ見ていたコボルト兵たちは引き揚げていった。(引き揚げてみせただけだろうけ どな) 「僧衣、押しつけたのか」二人は宿の一室にいる。宿といっても狭く簡素なもので、ここはハッシュバッシュ軍の 野営地だが交易もしてやるかくらいのものなのだとゴランは思った。商売を言い分としてヒューマンの土地のそ ばに居座っているのかもしれない。 「うん。ノームのおばはんは血の匂いはようわからんみたいでよかったわ」メアリは久方ぶりに腰を下ろし、胡座 をかいてくつろいでいる。(椅子のたぐいが見当たらないのは犬たちの脚に合わせてるんだろうな) 「それは、五本で仕舞いじゃなかったのか」「だいじな手札のこと他人にばらすやつがおるか」メアリはコボルトた ちの毛をぬぐい去るように手入れをしていた暗器の針をさっと自分の赤い髪にしまい込む。「うちは目の前のつ めたいおっさんのことも信用しとらんのや」 メアリはハッシュバッシュ様式の狭い部屋を見渡す。「部屋んなかまでわんこの兵隊にみはられてたらどない しよおもてたわ」 「じゃあ扉のすぐ向こうにいるな。あまり威勢のいいことを言うのはやめとけ」 「そのわりにおっさんめっちゃくつろいどるやないか」 「立ち上がったら頭がつかえるだろうが」ゴランは横に寝そべって頬杖をつきながら警戒していた。(招き入れは しても他種族のための建物をわざわざ作る気にはならんか) 「うち、はようあほなおっさんが頭ぶつけるのを待っとるんや」 「そう言うな。コボルトたちだって厳しいのは口だけでだいぶ優しい処分をしてくれたぜ。子供が歯向かわなけ れば世の中結構甘いもんさ」 「子供をだしにする大人がいちばんきたないわ」「悪党同士、持ちつ持たれつさ」 |
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