「どや。うちはやっぱり着物がいちばんや。すずしいわぁ」ゴランの目の前の闇がばたばた音を立てたのはメアリ が舞ったらしかった。 「何回言ったかわからんがさっさと行くぞ」やり合ったコボルト兵に教えられた通りに川を沿って下流の地を目指 し、ゴランは夜に突っ掛けを鳴らし始めた。 連れの少女は早速に道草を食って、ゴランが振り返れば川明かりを映し込んだ人影となっている。しゃがみ 込んでいるのが判別できた。 「なんだ、また厠か」「あほう。へへへ」少女が背負い袋を探って得意気な声と一緒に取り出したものがある。 「そんなものを背中に入れていたから大怪我をしたんだ。馬鹿野郎」 「馬鹿いうなや。したらなおさら役だてて元をとらなあかんのや」メアリは酪農の村でゴランが買ってきた牛乳瓶 に、流れる川の水を詰め始めた。 「お前は《ポーション》の力で、まるで熟睡しながら飲み食いしたくらい元気になってるはずだぞ。俺はお前を治 療した右手元気になってなくてくたくただ」 「へっ、子供のことをいたぶったばちやで。しかし、それだったらなおのことおっさんのために水を持ちはこんでやら なあかんわな」メアリはそう言いつつ瓶を傾け川明かりにきらめかせた。「んぐ、んぐ。牛乳の味がまだするわぁ」 「汚えなぁ」 夜の坂を下っていくとゴランは自分の手に触れようとする当たり心地を覚えた。頼りなく、細く、体温を帯び た指なのをすぐわかったので、彼はメアリの手を握ってやった。 二人の視界が闇に閉ざされているぶん、耳が聡くなってそこかしこのモンスターの息づかいが否応なく入って くる。(こんな時昼間のようにメアリに消えられたらもう成すすべがないな) 「止まれ、ヒューマン」「なんだ、ヒューマン」「ヒューマンだ」「ヒューマンだ」 ゴランとメアリは槍にずらりと包囲されている。コボルトたちは野営地の逆茂木を飛び越えて後から後からや ってくる。 (やっぱり、夜に強いのか)ゴランは犬の頭をした兵たちが夜中に物珍しそうにやってくるので、逆に彼らを眺め 渡した。先ほど戦った斥候と違い、兜に鎧と武装しているが、ところどころは分厚い毛皮の邪魔になるのかヒュ ーマンやドワーフほどの重装にはできないようだ。しかし彼らの携える槍の穂先は鋭く、二人のヒューマンを的 と定めていた。 「俺は商人だ。娘と旅をしている」 「荷物も馬もないのはおかしいぞ、ヒューマン」 「このあたりの深い森や狭い山道で馬車を使うものはそういないが、知らんのか。荷は首尾よく売れた。道に 迷ったからモンスターに追いつかれるよりはと残りは捨ててしまったよ。夜分遅く娘が疲れてるんだ。寝床に金を 出そう」「うちはそうつかれとらんのや。意地はっとるおとんのが心配やで」(黙りこくっていたくせに余計な口を挟 みやがる) 「確かに、あの村も、馬より牛が一杯いました」「だ、だまれ!!」「はい!」(うかつな奴らだな)隊長格に進 言した兵士は犬の尻尾を巻いて耳を垂らした。「ふふ、はは」メアリはおかしそうに笑う。 「ノームの商人と取り引きがしたい。会わせてくれ」「いいだろう、ヒューマン。同胞に会わせるその前に、検査 だ」二人は更に取り囲まれた。 「いいぞ。俺の得物は《ダガー》だ」隊長格に軽く言って素早く渡した。 「ふん、気前が、いい。他に隠していないか」彼の言葉に兵たちがゴランを囲んで服装をぱんぱん叩き始め る。「小さく軽いもののほうが使いやすいし警戒されないからな。俺の商売にはもってこいさ」(《吹き矢》は草 の茎から作ってあるので隠しやすく叩いた程度ではわからん) 「うちも《ダガー》やで〜〜」「ヒューマンは、子供に武器を持たせる、のか」 「こいつは悪い子でな、言うことなかなか聞かんのだ。その長い髪の中に通しを仕込んで暗器と言って遊んで る。ちゃんと調べたほうがいいぜ」 「なんでやねん!!」 |
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