モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

8.マリー! マリー!



「ほら、きりきり歩くんだ」綱は引かれる。

「本当に道草を食いやがる」ゴランは背後を確かめた。連れは石化したのではないかと思わせる、手綱の感
触を幾度を味わわされて閉口していた。

(驢馬のどこが馬だ。さすがにしっかりしていやがった)ノームの商人は荷運びならぬ、頑固なお荷物を寄進し
てきたのだった。抗弁や拒否をすれば、敬虔で自己犠牲心の強かった坊主たちの化けの皮がはがれるとゴラ
ンは考え、こびとの商人の安い誠意を不承不承受け取ったのだった。

 もう一人の連れは大人の不出来を小さな口でさんざん罵ってくるに違いないと彼は思ったが、(奴や荷物を
こいつに乗せれば旅程も楽になろう。速度は今より遅くなるが)ゴランは背後でまた怠けた石をぴんぴん引っ
張る。


「メア……マリー、マリー。マリー様? おい、大丈夫だぞ、俺は一人だ。おい、ふざけるんじゃない。さっさと降
りてこないか」

 樹木が返事をすることはない。

 ゴランは呻き、そろそろ夕にかかる日差しを認識した。

(さすがにふざけてはいない……。これはメアリの命の綱だ。酒場でも大事にしていた)ゴランはゾール教徒の
赤い僧帽を地面から拾い上げた。

 彼はすぐさま驢馬を近くの樹につなぎ、足音を立てずに連れの捜索にかかった。(なにか余計なものとぶつか
ったに違いない)

 ゴランの心持ちはまた変わった。風に乗ってささやかな声が流れてきたから。独特の言葉と独特の調子。少
女はまだまだ無事のようだとゴランはやや不謹慎な当たりをつけて、慎重ににじり寄っていった。

 近くに屋根を持つ材木置き場があって、メアリの小さな声はそこに隠れているらしかった。

(さて、何が起きたのか見せてもらおう)少女の話しかけている相手の声はしないのだ。ゴランは地面に這いつ
くばって、やや遠くから材木置き場を覗いた。落ち葉たちが彼の?をなぜる。


(こいつは驚いた)子犬のようだが、少女よりも大きい。それが無帽のメアリを包んでいた。

 じゃれているのではない。(な、なあ、そない大口あけとらんでもええやん。い、いや、なにか言うてや。さっ
き、そっちからなにか話しかけてきたやんか。もしもし? 共通語いえる? いえますか?)

 子犬はメアリへの返答の代わりに吠えて、自らの牙を誇示した。「いやん! かぶりつかんといて!」

(なるほど、わかった)這いつくばるゴランは材木置き場の二人から目を離さずに考えをまとめた。

(ノームがいるならコボルトもいると考えるべきだった)メアリは自分の赤い頭を押さえて怯えきり、迫る牙から
一ヤッチでも離れようとしたがっている。(そしてあの子はコボルトを知らんのだ。イリス神の愛に包まれてハッシ
ュバッシュに平等に住む、二つの民を)