「なあ!」少女は大声を出した。 「なんだ」後ろの大男が受けた。 「モンスターにはうちらのことばがわかるもんもおるやないか」 「そうだな。二本の脚で立っていなくても話のできる頭のいい奴もいると聞く。聞いただけだがな。俺はこうして 外を旅するのは滅多にやらん」ゴランの仕事の客も相手も二脚が目当てであった。 「はあ!」前を歩くメアリは声を出して溜め息をついた。「そういうれんぢゅうを相手におおごえでねたばらしをし てあほやなって思わんのかい」 「相手にはしてないさ。俺たちはまだモンスターの口の中にはいないんだからな。まだ生きていることを喜んでり ゃいい。喜びながらきりきり歩け」 「まったく行きあたりばったりなおっさんや」メアリは頭をかこうとして僧帽の長い布に阻まれたので、手のひらで 叩き返した。 「そうやモンスターとはかぎらんのや。たったふたりの話しごえがしとるとおもたら蛮族がよろこんでかけつけてくる で」ゾール教の高僧の姿をした少女は怯え、あたりをきょろきょろ見渡す。気がつけば足元が森の中の小径に 変わっている。 「誰だ、蛮族って。ああ、お前は地図をろくに見たことがないな。ガークもアーリエルも砂漠の少数民族さ。い つかは列強に、が旗印のようだが。ベング王国と一口にいっても広大なんだよ。俺たちはそこを必死になってう ごめいている」 「うちかて必死になっておもいだしとるんや。ベングなんて来ることになるとはおもわんかったわ」 「それは俺だって同じさ。さあ、とっとと歩け。薄暗くなればなんであっても腹を空かせて飛びついてくるぜ」 「どこまであるいたら助かるおもとんねん? 地図がどうのとじぶんも持ってないくせにえらそうに……」 「木があれば川もあるということだな。ベングは砂漠と山がちだから雨はあまり期待できん」 「宿もないのにあめにふられたらうちら死ぬわ。くちの中の水だけはかんげいや」小径から森を見透かした先 に、ふたりは水流の音を認めた。 「よしとけよ。モンスターの水飲み場になってるだろうさ」メアリが《ポーション》の空き瓶を取り出すとすぐさまたし なめられる。 「そろそろはらへったんやけど」ゾールの高僧は眉をしかめた。 「飛び込むはめになったら溺れないように気をつけて飲め」 「逃げみちにつかうんかい」 「流される方が危険かもしれんが、まあたくさんのことに気を付けておいてくれ。お前ならできるだろう?」 「うれしくないわ」 川沿いの道を選んでしばらく行くと、逆茂木のものものしい柵が遠くだが並んでいた。険しい山奥に人間の 作ったものがあれば旅人の心に深く刻まれる。 「水と川と道があれば集落もあるわけだな」 「は~~たすかった」メアリは一気に駆け出して自分を安全な場所へ運んでいった。 |
|