「おお、意外とにぎわっとるやないか」 「意外だな」ゴランの眼はある種の者たちの姿を探す。(殺気は放っているが、違う)と思った。 「兵隊、おらんな」 「お前もわかるか」 「あたりまえや。どこへいくにも衛兵はんのごきげんしだいやで」 「ふむ」今のゴランたちは回状をまわさせる身であって、盗賊の少女のかつての日常よりもっと悪い状況であっ たはずだが、(村の入り口に検問さえないのだからな) 詰める兵士は皆無ではないだろうが、ごく少数であってやはり連絡も行き届かぬ山奥なのだとゴランは判じ ることにした。 「なにをして儲けとるんやろな」「その格好に似合わない態度はよせ」赤い僧衣のメアリは前を歩きながら振り 返り振り返り尋ねてくる。 しかしいかつく派手な大人たちの何度もすれ違うなら、好奇心の強い糞餓鬼には無理からぬことかとゴラン は思う。殺気を放って腕に覚えのありそうな連中の挙動は、山奥に逃れてきたお尋ね者の心を身構えさせ る。 「賭場でもひらいとるんやろか」 「こんな馬車も来づらい辺鄙な村にか?」からからからん。 「おっ、なんやろ」「俺たちも呼び寄せられてみるか」明るく甲高い鐘の音のする方向に荒くれたちが歩き始め ている。 メアリとゴランは村の中央らしい広場にたどり着いた。荒くれたちだけでなく、野良着を身につけた村の本来 の住人も数多く集まっていた。 「あっ、ほらほら!」メアリが歓声を上げる。「なるほどな」 村のほうぼうから牛たちがそれぞれの持ち主に急かされて最後に到着した。 「険しい山奥なら酪農が常道ってわけだ。いかつい奴らは冒険者で、牛を高原に連れて行ったり、村を守って やってるんだろう。村はそれに対して報酬を払うが、冒険者の世話や物を売りつけて金のやり取りをしてる… …というのはよくある話だ」 「ベング……ベング高原の牛乳か」メアリが記憶を手繰っている。「やすくておもたいもんやからうちには手が出 えへんかったけど、いつもようさん置いてあったな」 「ふむ。俺たちが門を抜けた時も牛が並んでいた気がするな」 「なあなあ、ついてこうや。みんなどっかいくみたいやで」メアリが陽光のもと額に手をかざす。牧童が牛を並べ て冒険者は支度を始める。 「牛に草を食わせに山を登るだけだぞ。お前また手出しをしようとして」「せやろか? お祭りみたいやん。うち、 牛乳は損やって言うたやん」 「祭りだったら朝からやってるさ。あれは多分牛を交代させて何度も山へ向かってるんだ。それより人間が食事 をしようぜ。お前、腹が減っただの喉が渇いただのと」 「せやった!! はよういこう、聞いたらはらがへこんできた」 「せっかくだから牛ステーキにするか」「え〜〜」メアリが低い声を出す。 「あないな可愛いもんくうんか。鬼か? 鬼やったな。うちは豚ステーキにするで」 「豚だったらいいのか」二人は牛の看板を見つけて酒場兼料理屋に入っていた。(俺の宿でなんでもかんでも 食い放題していたくせに) 「じゃあ俺は鶏ステーキにするか」「ははは! ゴランかてかわいそうになっとるやないか! いややわぁ!」メアリ は嬉しそうに笑った。 |
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