「賢明な判断です。あの方はいま世俗との関わりを断つ修行の最中であらせられますから、ご用件はこの私 がお聞きいたします」ゴランは食卓より低いところに向かって話した。(奴には口を利かせん) 「汗顔の至りです……。お二方が歓談のご様子と勝手に断じて、わたくしめは気安い心を抱いてしまいまし た」ゴランの望まぬ客はその声まで低くする。 「我々は先を急ぐ旅でしてな。残念ながらお力にはなれません」 「いえいえ! 力を絞るのはわたくしの方です! 寄進の用意はできております!」 「ふむ」 「相談にお乗りいただければ、わたくしが村に持ち込んだものをどれでもお捧げする所存ですよ」相手はゴラン が一瞬考えたのを察知したようだった。 ゴランは欲しいものがあった。目の前の相手と、席を外している子供の姿を考え合わせてみた。(こいつとメ アリは移動手段が必要なはずだ)そのメアリのつまらぬ隠し事で失った馬。再び手に入れたかったが、(今の 俺たちのしたいことは誰でも気をつける)馬を買おうとすれば素性の記録やら手続きをするためになるのだ。こ ういう田舎村であっても、(いや、田舎だからこそ俺たちのような輩がよく逃れてくるはずだ)周囲の冒険者らが ゴランの思考をあざ笑うように歓声を上げた。 (こいつから合法的に馬をいただくことができる。そうでなくても、《ポーション》数本があればメアリを歩かせるこ ともできる。この弱い者は村人と同じく、冒険者を客にしていると見た) 次に、連れの格好を再び思い浮かべた。(面倒な相談を持ちかけられているに違いないが、俺もメアリと共 に赤い僧衣に守ってもらって強気に出るか)「神が天上から見ているなら、俺たちみたいな奴らからなんとかす りゃいいじゃねえか」いつか赤ら顔でそう言ったのはハーンだったかペルタニウスだったか? シーフのくせに大声 を出しやがって。 「はぁ。まだ腹いっぱいやわ。ぬおっ!!」 大声のした方に客が向くより早く、ゴランは自分の頭巾を大袈裟にかぶってみせた。 「お、おお」メアリは席を立った時から赤い僧帽をしたままだったが、彼女の預かり知らぬ客の前であらためて 面布をしてみせた。ゴランの意思は伝わったようである。 メアリは僧帽の下で怪訝な顔をしているが、ちょこんと椅子に座った。ゴランもつい少女と客の体躯を見比 べた。 「時に、我らの神をあなたも奉じておいでなのですか?」そうゴランが言うと、メアリの眼がじっと見てくる。(邪 魔をしてくれるなよ) 「いえ、違います。不心得者と感じましたならお詫びいたします。でも、不信心ではありません。ご存知と思い ますが、わたくしの国はふたつの種族が共に暮らしています。それは我らがイリス様の愛深きゆえです。そして わたくしたちも広き愛を持ちたいと思っているのです。それはあなた様、い、いえ、こちらのお方もご同様なので しょう? 同胞として敬服たてまつります」この不意の客はメアリからゴランにあわてて向き直った。 小さきノーム。 |
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