モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

9.フランベルジュ



 人だかりは異常であったが、ひしめくのはゴブリンの背丈である。

 ゴランは背負っていた荷物を下ろし、鍛えて太くした両脚の間へ挟み込む。この街の弱いが油断のならない住人たちには備えが要る。

 人混みの芯を覗く。ここでは猫の耳は目立つ。中心にはシャーズの衛兵が数名集まっており、誰か一人を更に包囲していた。

 ゴブリンたちの好奇と恐れのざわめきの網目からときおり震えた哀れな声が這い出してゴランの耳へなんとか届く。

(ブーク)ゴブリンとしては社交的な男で、他種族のゴブリン街に対する窓口になることが多い。

「本当です。本当にシャナク様の刀です。何十回言わなくてはならないのですか。素晴らしい業物と見とれていたから分かるのです」そこでブークは衛兵たちから叱咤を受けた。「わたくしは盗みなんてしたことありません」

(顔役になれない哀れで便利な下僕だ)ブークは震えあがる。「わたくしは盗みなんて、したことございません」

「シャーズ様たちはご存知ないのですか、シャナク様の刀を」ブークはまた大声の叱咤を受けたが、沈黙の肯定がなされたのはその場の誰の目にも明らかなことであった。

「隊長、どうしてもほどけません」姿の見えぬ端正な発音はしゃがんで検分していたシャーズの騎士であろう。

「シャナク卿の使うフランベルジュと証言するのなら、誰がなんのために腕へ縛りつけたと申す」特に着飾ったシャーズが言う。

「わたくしに分かるはずもございませぬ……。しかし、朝まで盗まれなかったのは良かったではないですか」やはりブークは怒鳴られた。