ゴブリンが襲撃された。 「おい待て」そのゴブリンが逃げていくのは、シャナクの後ろから差し込んだ松明の光、それに仰天したからだ。 シャナクは視線をずらしつつ素早く振り返る。輝きに惑わされることなく、光の主を認めることができた。利き腕のフランベルジュをこれ見よがしに構える。 「驚きだな! 貴様!」ローブと頭巾を纏う者。シャナクは老人へ詰め寄った。 ふためいて遁走していったはずのヒューマンが自ら歩を進めてきた。シャーズは訝しんだ。 相手も怪訝たる様子で、松明の手を引いたり伸ばしたりする。シャナクも相手を確かめてやる気になった。シャーズの瞳は吸い寄せられ、昼間にいるかの如く細まり、痩せたブルガンドとマーアムルに似る。 「人違いか。ゴブリンの町に何用か。正当な理由を述べ終えたら消えていい」シャナクは長剣を下段に持ち変えた。自分をこけにした者でないと分かったので、感情から必要以上に寛容になったのであろう。 しかし先方に伝わらなかったのか、松明を未だに掲げてこちらを覗きこんでくる。 (やはり正体は老人で、耳が遠くて分からないのか……。しかし先程は灯りも使わずに歩いて来た……)シャナクの思考は一瞬だけ混迷してあらぬ方向へ飛んだ。 灯りが落ちた。 松明に慣らされていたシャーズの瞳は混乱に陥った。シャナクは言葉にならない叫びを上げていた。心も恐怖に浸けられそのまま凍りつくかのように闇に落ちる。 シャーズの騎士の向いていた方角が変えられていた。足音と凄まじい衝撃。体当たりだった。 猫の瞳は光と闇にすぐに慣れる。頭巾の相手――敵をまなこに入れることができた。老人の胸にはやはり水晶のどくろの暗い輝きが目立つ、いや違う。 (ダガー) 修道僧のようなローブをしっかりと着込んでいたが、その懐を分けて覗くのはまがまがしい短刀であった。 シャーズのもう一つの本能がシャナクの命を長らえさせた。軍服の前が裂けていた。しかし、痛みは全くない。咄嗟に刃をかわせたのだ。 「シャーズにダガーで挑むか、愚か者め」敵を呑むべくまず嘲りの言葉を投げる。そしてフランベルジュを中段へ構えた。 |
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