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7.闇夜の決闘



 あの老人なのかそうでないのか、どちらにせよ正体はほんの手近に立っている。

 シャーズの騎士は頭巾の相手にぱっと近づくことができる。彼が懐に構えるダガーなど歯牙にもかけなかった。

 シャナクは口から烈迫の気合を出した。フランベルジュを既に振りかぶっており、敵の頭巾を縦に斬り下げるつもりで叩き落とした。

 しかしその間合いはおかしい。半人分届かない。頭巾の者はそこに気づいたようで、反射的に短刀で防御を試みる。

(間抜けめ)獲物が罠にかかればシャーズの本能は喜びに満ちる。

 フランベルジュとは、長くうねり続ける刃を湛えて奇妙な美しさを形づくる剣である。

 扱おうとする者はその美を頭と身体に激しい鍛練をもって叩き込む。そして、(安っぽいダガーを飛び越えることができるのだ)会心のシャナクの予想通りに、フランベルジュは相手の刃と合わさることはなかった。そして、浅いが痛烈な切れ込みを敵の利き腕に刻む瞬間が訪れる。

 頭巾の者は倒れた。「う!?」驚いたのはシャナクである。敵に傷を負わせてはいないのだ。相手は右肩から自ら地面に倒れ込んだ。右腕、ダガー、身体まるごとを柳のように退かせてみせたのである。

(シャーズでないくせに!)頭巾の頂が平らな者へ、シャナクは目を見張りつつも敢えて状況は好機と判断した。夜空の下で身体を仰向けに晒す愚か者がいるのだ。退かず、畳み掛ける。

 ウルフレンド大陸を剣で突き通すつもりで力を込めるが、その利き腕に熱い衝撃。

 シャナクを更なる驚愕が襲い、悲鳴が思わず漏れた。地面の曲者を飛び越えて前方へ逃れた。

 後ろからの打撃。シャナクに確かめる余裕はなかったが、それは地面の者の放った左足の蹴りであった。シャナクの敵を一つの小さな支点に乗せた板に例えれば、左上を押せば右下が上がるというもの。

 シャーズは心と身体を切り替えるのが早い。踵を返すのも早業と、シャナクは敵に相対するつもりだ。

 フランベルジュを使う自らの腕は彼の誇りである。(ステーキ肉をのこ挽くにも足りぬ、貧乏ダガーがなんだというのか)剣を正面から打ち合わせていれば素早い正式の騎士が曲者に勝利することは間違いない。

 正面に敵はいなかった。決闘の舞台はゴブリン街の広い大通りであり、シャーズの騎士の瞳は夜にも異常を見逃さないのである。シャナクの頭上に飾られた猫の耳も戦いにおいて健康なはたらきをしていたのだ。逃走の最中にだって追ってくる足音および遠ざかる足音には注意をしていたはずだ。

 迷いの時間は与えられなかった。上空から来る者。

 シャーズは対応したが、広がるローブである、と目前を認識するのがやっとのことだった。ヒューマンだけでなくあらゆる死すべき者がこれほど跳躍できるはずがない、 と考える暇などない。そして、ローブの中身の男はダガーを同じところにぴたりと構え続けていた。

「ぐ!」刹那、シャナクのフランベルジュはヒューマンの一撃を完全に防いだ。

 そこで誇り高いシャーズの騎士は恐怖に陥った。視界の外の自らの腿が苦痛で染まっている。吹き出る血。

 敵の腰のあたりも同様に裂けている。ローブが破れて突き出ているのは彼のもう一つのダガー、すなわち暗器であった。