その建物は一面がまるごと一枚の門扉であった。しかし錠は見当たらず、オークの恰幅に丁度よい隙まで開け放たれていた。 黄色きマーアムルと青白きブルガンド。ウルフレンドを見守る二つの月明かりがいまダグデルにも美しく差し込んでいる。 二種の月光を手助けに中を覗いてみれば地底に昏々と伸びる階段を感ずることができる。 奇妙な幸運により悲願のヒューマンの領土にありつくことができたオークの兵ら。気持ちが上向く相手をこの土地が魅了することはたやすく、ダンジョン発見ともなれば押すな押すなの人だかりであった。 けれども、悪のヒューマンの巣窟である。罠と呪いのいかにも込められた扉に触れたい者はおらず、慎重に動いて交代交代で狭い視界の観察に必死になる。たくさんの者が自発的に偵察任務を行ったようである。 一人、兵装でない若者がそのかさばる物のない体を生かして地下へ潜ったらしい。しかし入ったと思えば出て来て、そのレイヴァンの行水のような有様で「某様に告げてきます」と不明瞭な叫びを後に残し早駆けで飛び去っていった。 残りの者は煙に巻かれたが、それはともかくとばかり再び両開きの扉の左右に二人が張り付く。こうして交代で覗けば効率が良いといつの間にか決まっていたことである。 そこへ突如として闇から二つの手が伸びる。そして二人の兵士を掴んだ。首根っこ、背後からである。兵らは月明かりの下にヒューマンの影を想起して悲鳴を上げるも、圧迫されたのどはそうさせてくれなかった。非常な力が激痛と共にやってきた。 オークの丸い体二つ、それが本当にごむまりみたいに軽く扱われて後ろにころころ転がった。きっちり列をなしていたオークたちは割り込んだ強者に既に蹴散らされている。 それともう一人、「親衛隊のガルーフ様だ。下がれよっ」ジングの隣からグロールが再三叫んでいる。 ざわめくオークたちは地底に潜っては戻った若い詩人のジングの顔をも認めて指をさした。 先頭のガルーフは怪力をもってダンジョンへの入り口をさっさと開いた。 |
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