まったくいつもながら堪える。バランの名のもとにのどや鼻毛を焼かれるよりも。ガーグレンの拳は狙いすましてガルーフの頭部に当たり、小生意気な首に震盪を与えた。ポーションを貰えなかった口腔は異様な不快感に乾いていたが、将軍を笑って気が散れていた。だがその将軍にしてやられたわけだ。ガルーフはいびられて痛み続ける自分の頭部を気遣う。 調子を戻そうと左右に傾ける首で砦のごつごつしつつ整然とした内観がガルーフの瞳に傾いて入ってくる。ダグデルというらしい――コボルトからヒューマン、この時代に初めてオークのせしめた関門――の内部をまた目に入れる。 ゲーリングやジング、その他取り巻いていた士官らはめいめいの仕事のために解散していた。ガーグレンは……傾く視界の片隅に態度大きく傾く姿。自らの大きな尻に合わせた牀几に鎮座まします也。未だ不機嫌に顔の部品を歪めており、自分が病人だろうとガルーフは思った。牀几に座り心地よさげにかぶせてあるのは洞窟熊の毛皮かとガルーフは見当をつける。強力無比な彼らの皮は高額で取り引きされ力と財をいっぺんに示すのに使われやすい。品は良くとも上の身体が良くはなかった。姿勢をしばしば変えて唸りをこぼし非常に落ち着きが足りない。 彼と視線をまた合わせればいざこざは確実だろうけども、ガーグレンに指摘された通り自分の反抗の虫は何にでも楽しげに興味を示すから良くない。進み出るか退くか迷う。しかし丁度ガルーフの腹部に物足りなさが訪れた。(じゃあ、いいか)若きガルーフはオークの肉体に単純に従うことにした。胃袋に餌をやろう。 「ご注進!」離れようと歩を踏み出したその時に飛び込む声。おっ、とガルーフは向き直った。 あ、と走り込んできたひとりの士官は口を抑えた。ガーグレンは親指をくいと自分の側へ向ける。 (先に探索に出したやつらだな)ガルーフは空腹を忘れた。士官がサーベルを鳴らして司令官へ駆け寄り秘話を始めた。最初の一声に隠せぬ動揺が混じっていたので場ははっきり緊張している。 ガルーフの血も沸き立つ。冷たい血が全身を素早く巡ったような気持ち。外への感心強いこの若いオークは痛みを受け腹を空かせた自分の内側はもうどうでもよかった。 「……至急ご考慮賜りたく私を遣わした次第にございます! して私めの位置は!?」最後の一言が魚の小骨のように思える。 「おまえの配置を変える。まず神官らを警護せよ。ゲーリングという者が最も近い。彼自身が坊主どもを集めているところだろう」(警護ではなく士官が案じてもらいそうだな)ガルーフは医者のような神官を思い出した。 「のち、命令の詳細をひもとくことを許す。他の隊の行方を調べ責任をもって呼び戻すこと」周囲の士官にも同様に命じた。彼らが急いで列を整え一斉敬礼しばらばらと素早く駆け散る。 「おありがとうございます!」使者が殊更に声を張り上げた。 (逃がしてもらって安心か)残りのガルーフにも命が下った。報告した隊を連れ戻せと。 (やはりな) |
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