空は憂いを誘う色に染まりつつある。その広く暗い空の下でさえ奇怪な沈黙を保つヒューマンの砦であったが、いま騒ぎの声が注入されることとなった。オークの兵はみな狂騒の中にも警戒心があらわれた。砦の中身に溢れるヒューマンの様式はオークの丸みを帯びた眼差しに珍奇に映った。そして肉に埋もれた首をたっぷり疲れさせてぞろぞろ眺め歩いた。 「随分余裕があるんだな。これほど奥まっていたとは見えなかった」後続の部隊がまるごと入りそうだった。「先方の考えは依然不気味だけどな」 「ガルーフ、貴様、珍しい笑い方をしてるじゃないか。虚勢を張っているな」腕を伸ばし意気揚々とブルグナの旗を掲げるガルーフの後からガーグレンの駒が続く。 「将軍の声と同じく興奮を隠さないだけさ」背中を向けたままの声は高い。「まったく高い。もしも四方から倒れさせられる罠ならブルグナも一巻の終わりだな」田舎育ちのガルーフは石造りの城壁に圧倒的なものを見ていた。「城壁の内は巨大な吹き抜けみたいになって何層もの階に兵を置くことができる。吹き抜けの所にも高く大きな建物がいくつもあり兵を寝かせられそうだ」 「饒舌だな。ふむ。城壁に弓兵を置ければ強かろうな。外からは分からなかったが恐らく矢を放つための覗き穴があるだろう。それと城壁を超えるほどの建物は櫓さ」列は長いこと歩いたが突き当りはいまだ見えない。 「……そうか」 「この程度で恐れ入るんじゃない」ガーグレンは鼻を鳴らす。「吾輩も幾度が訪れた。毎度この近辺がいくさの正念場だったが」「よし、旗は見晴らしの良い場と決まっておる」ガーグレンが行進の先頭だけを止めた。場の士官らを適当に振り分けめいめいに調査隊を作らせた。小勢が砦の各方面に散る。ガルーフは旗を据え付けて後続の雑兵たちを迎える仕事を始めた。周囲すでに暗く、松明カンテラとまちまち灯を携え歩く者も夕闇に現われる。 ここでガルーフの前にも飾りのついたカンテラが突き出された。「貴様、後方に走り詩人と神官を迎えにゆけ」ガーグレンの目付きは固い。 |
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