ガーグレンの声を聞きたくなかった。自分の情けない態度を笑うこともできない。目当ての者たちの見分けがつきませんでしたと帰れば将軍に処断されるだけだった。ガルーフは前に駆けて無闇にあがいた。(ヒューマンの国の夜空の下でとち狂ったかガルーフ) 砦を目指す隊列の幅は膨大に広かった。その大河の脇を豆粒みたいにひとり逆走する若いオーク。ガルーフは首を幾度も巡らせた。そのうち逃げの気持ちや処断を恐れる心は失せていった。 (当て推量でもいけるかもな?)眺め渡す軍の面々は幼き日に耳に入れたサガから想像した姿とは似つかなかった。行進の疲労と山の埃にまみれた顔と体を申し訳程度に覆う不揃いの武具。そこからはみ出す迫力あるオークの肉がかろうじて戦士の面目を支える。幼い耳に親しんだ軍神バランの栄光は誰一人まとっていなかった。 その悲惨な姿で逆説的に詩人の姿を思い出した。(とにかく綺麗な服装を見つける)ガルーフは自分を嘲笑う。このような態度が膨大に集まって現在のブルグナの悲惨な愚かさが出来上がっているのだ。行軍に飽きたとガーグレンには言ったが、心はおかしいほどに様々なことを考えている。 雑兵の中にときどき士官の姿が目に入る。(軍装はわかりやすい)考えれば何人連れてゆけば良いのかも分からなかったが、(一組で十分)と断じた。 詩人より神官を見ることが閑村のガルーフには稀だったが、また(似たようなもんだ)と済ませる。 軍の長蛇の列は尽きることがなかった。長く走る体は疲れる。と逆にガルーフは上がってゆく高揚感を楽しむ。鉄を手に掲げ鉄を体にまとうオークの戦士たちの永遠の大河だ。 そして幸運だったらしい。戦闘に不向きな薄衣にリラを抱える若者。馬上に鎮座して何やら声を上げている。それは山々からの木霊を望むものではなかった。馬から見下ろす相手に喋っているのだ。 詩人の馬と並走する輿があって、ガルーフの知らない峻厳な印の羅列で満たされるものだった。つまり非常に幸運だったのだ。目当ての二人に一息に駆け寄った。 逆走の士官を見て二人は大いに驚いた。大声で話し込んでいたところを驚かせたらしい。ガルーフから書状を向き正しく渡されると詩人と神官の二人は更に声を上げた。 (つづく) |
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