貴族とグロールの「交代」があったりして、時間が相当経過してもヒューマンの毒素は働くものではないと見 た。このままグロールの身の上を聞いても問題なかろうとガルーフは判断する。 「あっしはシャーズの店で働いてたんすよ」 シャーズ、とガルーフは発音を単に繰り返した。グロールは遠くを指差した。「東のブルガンディ島の住人です よ」城壁を透かした遥か彼方の話らしい。 「彼らにも牙はありますがやっぱり内に引っ込んでます」グロールは指を自分の口に入れ、いいっと隠れた牙を 見せてきた。「上等の礼服を着てお客さんをもてなす、まあ、飯屋に変わりはありませんけれど。人当たりのよ いオークだとか言われました」 「それはどこか気に入らんな」 「ガルーフ殿ならそうでしょうけど、非常に楽な生活ができましたよ。まあ、彼らも変な人種で、飯屋なのに気 分が悪くなるようなことを。いや、向こうが悪くしたがるんですけど」 「さっぱり分からんし興味もない。軍隊が海の向こうまで行くこともなかろうに」 「ごめんなさい。こっちの話をします。たまにアルシャまで貰える生活というのは代えられないものがあったんです がねぇ。いつからか、得体の知れない平和活動で平和が乱れるというわけのわからなさで。しかもあっしらオー クが原因だとかで道端に呼び止められるわ店で視線を浴びるわ」 「それでブルグナへ逃げて帰ってきたか。ああ、そんな事情にまで威張るわけじゃないぞ」ガルーフは畏まるグロ ールに言った。 「信じていなかった十八年の周期が洒落にならなくなったので慌てて引き揚げたんですよ。宣戦布告に間に 合わなかったらどうなっていたか。王家が間抜けで悲喜こもごもですよ。内緒内緒」声を急に小さくした。 「なんの事情だ?」 「ブルグナ側まで足元を見て船賃・関税・住民税を取り立てて信じられない思いでしたよ。家族を抱えて死 ねと裏で言われたようなもんです。更にシャーズからの請求で二倍盗られたんですから!」 「普段から荒稼ぎしていたんだろ。俺なんざ何回も餓死しかけた」ガルーフは笑う。 「あっしだって故郷に仕送り決めてましたよ。頭数ばかり多い親戚のために外国行くって心細いながらも決心し てね」 「そりゃ悪かったなあ」ガルーフは頭を掻く。「まあ軍に還元されたと思えよ。バランの教え第一だろう、俺たち は」 「軍がしっかりしてると思います?」 くっ、とガルーフは失笑した。 「外国の知識目当てであっしを拾い上げたと思います。隠していたつもりでしたが、引き揚げ組というのは目 立つくらい珍しいんですね」 「だが軍隊はやっぱりこんなところで飼いごろすわけだ」 |
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