「部下ども皆に仕事をやってしまった。残り物はおつかいをしろ」 神官と詩人と聞いたので、「占領の祝いでも」と暗い表情に対して聞いてしまった。ガーグレンの大きく平たい鼻に嘲笑された。(さっさと消えろ)という手振りまでされた。ガルーフはいつものように反抗を決めたが、「ヒューマンの領域に見とれるまえにオークらしくせよ。体を動かせ」と先回りされた。 ガルーフはさっさと諦めておつかいをやらされようと思った。しかし踵を返すところを抑えられて、「貴様ひとりで軍の配置を変えられると思ったのか。こいつを連れてゆけ」と握らされた物があった。 手のひらの上の四角で平らなものを見てみる。「毒の呪符でないわ。さっさと行け」 護符でもない何かをつまむとその腕をガーグレンが不意に掴まえた。ガルーフは反射的に力を入れた。 「礼儀を知らんのが平民だが、逆さに渡していいかくらい想像しろ」 意地のガルーフは無理な姿勢で札の向きをくるくると直そうとする。 将軍の目つきは更に鋭くなった。「文字が読めないのか、平民」 「じゃあ任務は辞退だ。そら!」ガルーフはいっぺんに語気を荒くして殴りかかるように腕を伸ばす。彼のオークの鼻が白んでいる。 ガーグレンは突き返された自分の書状を力で押し戻す。絶対に届ける必要がある。「いいからやれ。立派な者どもは出払っておると言ったろうが。ヒューマンの物珍しい建物をおかずにただめしを食らうつもりなら帰れ。そして帰る途中で死んでいい。臆病者め」 (ヒューマンの領域か)ガルーフは考えて引き締まるものがあった。しかし奇妙な意固地さがあって、「いちいち悪口を叩きやがって。俺は臆病者ではないから北に退いたりせん」と買い言葉をたたくのだった。 するとガーグレンの口許が上がった。「じゃあ臆病者になれ。命令だぞ」 ガルーフは自分の上気する脳天を意識したが、思い切って、無言で踵を返すこととした。 意地で逆に悠々とした姿を見せようと思ったが、「急げと言ったぞ!」と飛んできた声に背中を押されて従うほかなかった。罵声の続きも聞きたくなかったので。 名誉ある入城よとオークの列は途切れることなく向かってきていた。奇跡のような奇妙な戦果をその瞳に入れてみたくて灯を持つ者の元へ皆が集まっておかしな行列の形を作り上げていた。 熱気と灯火の輝きで夜が夜でなくなっていて、ガルーフひとりのランタンはなんの用も成さなかった。 そしてがむしゃらに走るガルーフは困っていた。 (どいつが詩人と神官だ) |
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