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7.ジングとゲーリング



「吟遊詩人のジングです」細い顔のオークが言う。詩人といったら女が群がるものだが、とガルーフは思う。(病人みたいなうらなりでも好くかな、奴ら)考えれば女のことを思うのは久しぶりだった。足りない物ができてもどうにか生きるうちに慣れてしまう。オークの辛抱強さであると考えたいところだが結局このようなヒューマンの国への途上に置かれている。

「バラン神官のゲーリングであります」若者の後を壮年のオークが続ける。ヒューマンの砦の中央を占拠し座したガーグレン将軍を取り巻いて盛んに焚かれる照明の元でゲーリングの意外な血色の良さが分かるようになった。

(宣教師だろうな)ガルーフの猟師時代において聖職者と辺境ですれ違うことは多く、根気の強い人種として認識していた。まるで探検家のように地図と地方の人民の所在を把握していた。オーク国中央の王城も彼らの情報を頼りにしていると本人らの熱弁をお説教付きで聞いたことがある。

「ガーグレン将軍におかれましてはこの度ヒューマンの邪悪満ちる砦を一兵たりと損なわず解放されましたる徳ある武勇、奇跡の歌となして永世に語り継ぐ所存にござります。いま真の英雄を拝する栄誉、我が生業の誉れ」ジングが歌う。細身であっても遜色なくあたりに通る声だった。

「ガーグレン将軍におかれましては天神バランの絶えぬ炎が御心のうちから溢れ出るほどの勢い。いつかバランの携えたる神々の武装が御元に遣わされますよう。すでに先触れとして見えざる護りが将軍を包んでおりましょう」ゲーリングが再び継ぐ。

 ついぞまで将軍殿の迷いをそばで聞いてやっていたガルーフには大変おかしい。両者の口の滑らかさと景気のよい単語が多いことはよく分かった。心がくすぐったいような気分で笑い声をこらえるのが楽しい。ガルーフは闇を幸いと無言で笑う。

「うむ」返事は一言だけでガルーフをつまらなくさせた。対面する二人も特にどうともなさそうである。

「まあ、お世辞なんざどうでもいいよな。ここで何があるというんだ。その手紙は何だったんだ」ガルーフは急かす。