「お眠りよ! 身体に毒だよ。お腹はいっぱいになったろう?」ティアラは言う。 「混んでるね」彼女の店をノーラは見渡す。主人と親しげに話をするシャーズの子に、周囲の視線はいや増 しているのだ。 「みっともない兵隊ばかりでノーラちゃん幻滅したかな? 任務がなけりゃとにかく暇な人たちさ」 「おばちゃんは忙しそうだね。だからいま話しときたいんだよ。朝になったらもっと混むだろ? あたしゃ忙しいんだ よってはぐらかされたらたまんない。一番大事なのは、おばちゃんだってちゃんと聞いとかないと損する話だってこ とさ」ノーラは夜の酒場に白い牙を見せて笑った。 「ふーん。そうまで言うんならノーラちゃんのお願い、聞いてやろうじゃないか」ティアラはきょろきょろと辺りを見 回し空いた椅子を求めた。 「ああ、お願いはもう一個聞いてほしいな! もっと静かなところで話をしたいんだ」 ティアラは眉をしかめた。ノーラとシャットの卓に手をいて頭をこごめてくる。「まさか、セテト様のご教義を勘 違いしてないだろうね」 「違うよーだ。あたいらは法は守ってる。セテト様、いや、父ちゃんに誓っていいよ」 「ふーむ。いや、ここで言えないのはやっぱりおかしいじゃないか」 「ちぇっ。シャットはどう思うんだ」ノーラは真向かいに座る少年に訊いた。 「酒の席で大事なこと喋ってる大人は馬鹿だなって、いつも思ってるぜ。信じられないよな」 ノーラは席を立つ。「じゃあ決まり! ノーラ評議会は多数決で決定だ。さあ行こう」 「どこへだよ」シャットは見上げる。 「へっへ、連れてってくれるってさ」「まったくいつもすばしっこいお嬢様だ。こっちに来な」 三人のシャーズは厨房を通って店の裏口から出た。 「今ちょうど何人か仕入れのために本土に帰してるとこだ。二人に寝床を貸してやろうと思ってたんだよ」 「そりゃあんがとさん! 朝までご飯をつついて粘ってようかと思ってたとこだ」「冗談じゃねえよまったく……」 「もちろんお宿もあたしのおごりだ。得だろう?」ティアラが二人を振り返った。 「おばちゃんは怖いねぇ。損をしないように気をつけないとにゃ!」ノーラが振り返り最後尾についてくるシャット に声をかける。少年はノーラの背を透かして宿舎と蔵を兼ねる建物に目を見張った。「暗くて気づかなかった けど、店の方もかなりのもんだな」 二人は中へ案内されて主人とともに階段を昇る。 「さっき、本土って言ってたけど」シャットは訊く。 「そりゃもちろん島だろ。入り江は遠すぎら」 「ポンペートの山は神様とあたしらのもんだよ」 シャーズたちはブルガンディ島とこの猫人間たちの首都カスズについて話している。 「さて、相部屋がいいかい。ちょうど二部屋が隣どうし空いてたけど」 「ばらだよ、ばらばら。学校じゃ男女席を同じうせよって言うけど、貴族は貞節を重んじなきゃあ」ノーラはティア ラを「はいはい」と笑わせた。 「じゃあ商売の話といこうか」店の主人は一部屋の鍵を開けてノーラとシャットを招き入れた。 「まず部屋を決めるのは小さいシャットちゃんにやらせてあげようかね。隣りの部屋を覗かないでここで寝たい かどうか決めるんだよ。貴族のお偉いお嬢様はセテト様のさいころに従うことはできるだろう?」それを聞いて 二人のシャーズっ子は互いの顔を見てにやっと笑った。 |
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