「憲兵さんの怒りようからして、繁華街が堂々とそびえてるとは思えないね」とノーラ。 「そりゃそうだろ。どんちゃん騒ぎがオレたちに届いてたらまるで苦労してねえよ」猫の耳を持った少年は言う。 「第一、ぐっすりおねむの兵隊さんたちが怒り出しちゃうね。それでも夜中に店を開けてんのは哨戒から帰って くる人らのためだ。派手な看板くらいは許されてるだろうさ」二人は推論を頼りに明けるともしれない夜を歩く。 「しかしよ、閉まってる高い天幕だらけじゃどうしようもないぜ。島のどのへんにあると思ってんだ姉ちゃんは?」 「む……。隅っこで商いやってるか、利便のためにど真ん中に置かれてるか……」 「まるであてにならねえなぁ」 「いやいや、また憲兵さんに出くわしたら道案内してもらやいいんだよ」 「危ねえよ! 子供ふたりでうろうろしてるのを怪しまれたじゃねえか」 「なに言ってんだい、別に堂々としてりゃいいんだ。あたいたちがここまでやって来たのはほんとのことだろ」 人っ子ひとり出くわさない。 「……そういや憲兵が言ってたけど、この島にゃゴブリンの召使いはひとりもいねえのか?」 「……いないはずだけど」 「そりゃあ安全でいいや」「こいつ」シャットが言うが早いかノーラは脚を伸ばした。少年はノーラの軽い蹴りをす っと避けた。 「姉ちゃんが憲兵に食ってかかってどうなることかと思ったけど、結局身分でなんとかしたな。姉ちゃんはやっぱり 嘘だらけだな。なんで軍隊ごっこをやりたがるんだ? 大好きなゴブリンをやっつけに行ったシャーズ海軍になり てえとはおかしいや」 (なんで軍隊やってんの!)ノーラは思い起こすことがあった。しかし思い出せなかった。 父はゴブリン征伐に向かう前になんと返答しただろうか。 (情けない)ノーラは自分に向かって言った。思い出したくない自分に。 突然、ノーラの目の前にとても背の高い人物が現れた。 「んぎゃん!! いったあ〜〜!!」少女の額は尖塔にしたたかに痛めつけられた。 「うわっ! 大丈夫かよ」駆け寄る少年の足音が聞こえる。 「ひい、ひい……」うずくまって痛みをこらえても涙は搾り出されていく。 「ねえ、血ぃ出てない。見てよ」石畳に赤いものはこぼれていないと思ったがノーラはシャットに訊く。 「出てねえよ。切り傷もついてない。大丈夫」 「髪には触んな! 手入れしてんだぞ」 「ちぇっ、自分から訊いといて。だいたい、ずっと海の水をかぶってきたじゃねえか。……ぼーっとしてんなよ。ゴブ リンだって良い奴と悪い奴がいるんだろう? で、悪い奴をやっつけるのが軍隊なんだろ」 「なんだよ、自分から言い出して。まあいいや! シャット君、ちょっと行って来てくんない」ノーラは傍らを指差 す。 |
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