「がっこで友達に言いふらすなよー」 「いいじゃねえかよ」 「にゃんでだよっ!」 「もう言いふらしてる奴がいるからさ。目の前に」シャットにそう言われてノーラは自らを指差した。 「なんだよぉ〜〜。あたいとお前の仲だろぉ」シャーズの娘は猫なで声を出した。 「今日会ったばかりじゃねえかよ」 「いや、もう二日目だろうさ。早くお宿をとろうね」 するとノーラはランタンの遮光扉を閉めた。傍らのシャットが船長の意図をはかる前に扉は再び開けられた。 「うるせっ」 ノーラはランタンを開け閉めし、けたたましい金属音が夜の海を荒らしてゆく。 「わざとうるさくしてんだ。夜襲の敵じゃないってね」 「姉ちゃんはゾンビ使いのとこ行こうってのかい」 「ばっきゃろい。こいつはアンデッドじゃないと思うな。呪ってくる奴は売りもんにゃならんからね」ノーラはランタン の中のウィル・ウィスプを覗き込み、力強くて綺麗な顔をぼんやり青白く染めた。 「天気が荒れてるとき帆柱のてっぺんに灯る青い火を知ってるかい。ああいうもんじゃないかってあたいは思っ てる」 「知らねえ。雷で燃えたのかい」 「おおっと、見つけてくれたね」「そ、空を飛んでんのか」「もっとよく見な。崖の上で、あたいたちが近づいてるだ けだぞ」シャットが霧を透かそうと目をこらせばノーラの説明の通りに見えてくる。 「あれもウィル・ウィスプ?」「そのとーり」二人は崖上の薄い光を見つめる。 向こうの灯が不意に動く。そしてノーラも応ずるようにランタンを動かし始めたのである。 しばらくしてノーラは息をついた。「はー……疲れた。さすがに眠いや。よしよし」彼女はランタン振りをやめて 崖上を見やった。 「いいのかい」 「ああ。何やってたかわかるかい?」ノーラは面白そうに聞いてくる。 「合鍵みたいなもんだろ? 互いに同じ動作をやってたぜ」 「へへ、暗号だよ、そんな簡単なもんじゃない。途中で何回か切り替えてきたからそれに応じて……。まあ、 機密だ、言いふらすもんじゃないよねえ」そう言いながらノーラはまたランタンを開け閉めした。今度はうるさくな かった。シャットが崖上を見守ると果たして明滅が返ってきた。 「仕上げしたのかい」「ううん。今のはお礼を言ったんだ。夜中に上げてくれるんだからね」ノーラは崖上を指差 して嬉しそうにする。「どういたしましてってさ」 今まで見つめていた場所から離れたところにウィスプの光点が灯る。 「さあ行こうか」ノーラはそちらの方向へ漕ぎ出した。 |
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