「おい! 逢い引きはしょっぴくぞ!!」声をかけてきたのとは別の者が、夜中にかまわず怒号を上げた。 「いいっ!?」「うえっ!」ノーラとシャットは容疑に対する異議申し立てをした。やって来たのはシャーズの軍人 ふたり。 「ほら〜〜お前〜〜!」ノーラがしきりに目配せしてくる。どうもこれが憲兵らしいとシャットは理解した。少女 は押さえつけるような仕草を繰り返したので、少年は口をつぐんでやることにした。 「いや、子供ふたりだ。売笑でもなかろう」声をかけてきた最初の憲兵が言った。 「うにゃ〜〜!! 返す返すも不届きな!」激昂したノーラをシャットは黙って見やる。 「なんで餓鬼がここにいるのだ。説明してもらおう!!」「うにゃあっ、それはですねえ」ノーラが剣幕の激しいほ うの憲兵に押されている。(アルテミアの天使とエサランバルのオーガか)シャットは目の前のふたりがわざとやっ ている役割を読んだ。シーフの少年はこういう手合いと相対することは多い。 「ですからぁ、あたいがーこいつをー救助してー」 「餓鬼ふたりがこんな遠洋に来れるはずがないだろう!! こいつら、ゴブリンの変装かもしれんぞ。奴ら、ごま かしの魔術を使うからな!!」 「にゃんだとっ!!」夜の島に金の髪が激しくなびく。(ゴブリン扱いされたことに怒ってるわけじゃねえんだろうな ……)シャットは自分の振る舞いを考えはじめた。 「お、おいおい、やめないか。ただの子供だろう」『天使』の憲兵が『オーガ』とノーラに割って入る。 「も、もうやめている」オーガは両手を挙げた。「ふーっ!!」水兵の少女がオーガの軍服の襟首を締め上げ ている。 (なんて素早い。しかし、駄目だこりゃ)速すぎるからシャットには止められなかった。海軍の基地の牢獄の堅 さを想像させられた。 「ノ、ノーラちゃんだろう? その派手な風貌と気性。はは……。大きくなったね」オーガは押さえつけられた自 分の喉から声を絞り出した。ノーラも思わず素頓狂な声を出す。 「ど……どちら様で」四人は材木に腰を下ろしている。 「い、いえ、名乗るほどでは。お父上の威名にくらぶべくもなく取るに足らない者です」元『オーガ』は言う。 「姉ちゃん、聞いてやるなよ。つまり言いつけられたら困るって意味さ」 「はは……お父様の勇名を畏れるという意味では本当です。いつもたくさんの将兵をブルガンディとカスズの 家に帰していただいており、娘御にお礼申し上げる機会をたいへん嬉しく思っています」シャットを殴りつける 令嬢に向かって元『天使』は言う。 「弟君にはお初にお目にかかりますが、やはりたいへん利発でいらっしゃいますな」元オーガはランタンの光で見 慣れぬ顔を記憶にしまおうとする。 ノーラは手をぶんぶん振って、なお振り続ける。「勘違いが多いよ! ああ、いえ、空いている宿舎をご存じ ありません? こいつも眠がってこんな不躾な口を利いてるんで!」 「申し訳ありません、我々は単に警邏の役目でして」 「ちぇっ、結局威張っていただけかい」シャットは元天使に悪態をつく。ノーラはそれを少しでも聞かれまいとあ てもなく少年を運んでいった。 「最初からオレの言った通りじゃねえの。身分を明かしとけばさ。貴族だ軍隊だってちっとも大したことねぇや」 「くっそぉ」少年の言葉が猫の耳に入ってきてシャーズ水兵は渋い顔になる。 「でもさっき商売女って言ってたな」 「にゃんだよ、小さいなりをして」 「ばぁか、女子なんてどうでもいいぜ。ここにもそういう商売があるんなら寝床があるってことだ」 「お前、本当に頭がいいねえ。いい分重いや」ノーラはシャットを島の石畳に下ろす。 |
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