「はい、小官が救助保護した次第であります」 「いえ、休暇中の、私用にて回遊していたところの遭遇でして……つまり自発的行動であります。えへへへ へ」 「は? いやあの、士官候補生であります。幼年学校の……。あー、持ってないですがもちろん問い合わせ いただいて結構です! でも待機はしたくないんで、お手柔らかにお願いします。へへへへぇ」ノーラは身体を くねらせる。 「ぼく、大丈夫?」窓口の向こうからシャーズの女性が話しかけてくる。 (ほんとの軍人か)シャットは壁際の大きな長椅子に小さく座りつつ思った。窓口には網格子がはまっていて、 殺風景な部屋の左右にはシャーズ男が二人、先程から直立不動の無言でいる。三人から逃げるにはどう すればいいか、シーフ志望の少年は暇つぶしに考えていたところである。 「健康に異状はない……と思いますよ。泳ぎ憑かれたんでしょうなあ、ははは」「シャット君に聞いています」 「は、はい〜〜」 「ん、別に……」 「念のためにお医者さんに診てもらおうか。二人ともね」 「えー」 「いやいや、お医者のお手をわずらわすまでもございません! こいつもえーと言っとりますし!」ノーラが割って 入る。 「あなた、回遊と言ったけれど漂流なのでしょう?」 「いやいや! 検査は時間がかかるじゃにゃいですか! こんな夜中に誰が眠たい目をこすっても誰も得しに ゃい! ねえお前! 宿舎のほうが嬉しいよねぇ!」ノーラは座るシャットに素早く近づいて背中をはたく。 「一理あるかもね。シャット君はどうしたい?」 「オレは別にそうでもねえな。その姉ちゃんは眠たがってたけど」 「礼儀正しくしろ、こいつ!」士官候補生が牙を剥く。 「宿舎か……。空いてるかどうか」窓口係は網の向こうで帳簿を手にして繰り始めたようだ。 「あっ! 空いてるかもしんないってことですね! 探索に行ってきます! 早くしないと眠くて健康に差し支え ちゃう! ほら行くよ!」ノーラは尻尾をなびかせ審査所の外に飛び出した。 「ほいほい」シャットも尾をなびかせて行く。 「ふーっ、追って来ないな。どーだい、あたいの話術」ノーラとシャットは星空の下を連れ立って歩く。 「ぺこぺこしてただけじゃねえか。あたいは金持ちだから〜〜って無理を言えよ」 「ばっきゃろ、軍人は階級と命令が絶対なんだぞ。あたいがいちいち素性を説明しててみろ、砲の的にされて 誰でも平等に粉々さ」 「ふーん。きょろきょろすんなよ、かえって怪しまれる」 「そりゃこっちの台詞だ、こんにゃろ」二人の足音だけが島の内部に響いている。 「どうせオレたち二人とも子供だから舐められて自由に泳がせてもらってるだけさ」シャットは高いところから低い ところまで辺りを見渡す。「しかしすげえもんだ」 「そうかにゃあ……。まあ何かしでかしても海軍基地から安々逃げられるわけもなし、か」ノーラは金の髪をか く。 |
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