「でっかい天幕がずらっと並んでら。すげぇなあ」 「そおだろぉ。ちょっとした小屋だね」シャットとノーラは自分たちが収まる宿舎を探して歩く。 「小屋なんてもんじゃねえ、立派な家だよもう」 「なに言ってんだ、大袈裟だね」 「そうかなあ」シャーズの少年は天幕の一つに取り付く。 シャーズの娘は何も言わずににっこり笑って手を振った。猫の眼が夜にきらきら光る。 「ちぇっ」たしなめられたシャットは天幕から離れる。入口の緞帳は堅く閉められているのだろう。 「寝台の空きがあったら開いてるさ」ノーラもさっきから周囲を見渡しては宿を探している。 「なあ、あれはなんだい」シャットは地面を見渡して言う。 「丸太さ」 「じゃあ、あれは」 「あれだって木材さ。資材だよ。お前、ヒューマン並みに目が悪いね」 「んなことあるか! 宿のほかなんにもねえんだな、ここ」少年はねぐらを探すのに倦んできたようだった。 「そりゃ、お船と違って人間にゃ寝床と食いもんが要るかんね。逆に言やあそれだけの場所さ。でもシャット君 だって身に沁みてわかってきてるだろ?」 「うん……」むきになって反論したくともシャットの顔には力が入らなかった。夜なのに暖かな空気に身を任せた くなるのだった。山に取り囲まれたこの凹地には海のあの霧は入ってこれないのだろうか。 「姉ちゃん言ったじゃねえかよ。ここにはお宝があるって」 「言ったっけ……。まあ、言ったな。だからぁ、あったかいお布団のことさ。お前がいま一番欲しくてたまんないや つだ。ふああ。ちっ」ノーラは自分の言葉に誘われてあくびを発し、牙で噛み殺した。 「徳の授業じゃあるめえし」 「こんな作りかけの基地にお宝なんか持ってきてどーすんだい。物見遊山の客なんか入れらんないよ。…… あたいらも余分な客だからいつまで歩いても泊まれにゃいんだな、ちきしょ」ノーラは木片を通り路から蹴飛ば した。ごみというより役に立たなくなった残り屑がそこかしこに散らばっている。 「基地なら普通に秘密兵器でもあるもんだろう」 ノーラが苦い顔して振り向く。「にゃんだよ普通って……。いやしかし、入り用にはなるか」 シャットは歩を進めた。船長の隣に並ぶ。「なんだよ、何があるってんだ」声を潜めて少女に訊く。 「秘密なもんをあたいが知るかっての」ノーラは虫でも除けるような手振りをする。 「ちぇっ、いろんなことを隠してるシャーズの姉ちゃんのくせに」 ノーラは手を自分の髪にやった。「やれやれ、歩きっぱなしで頭が退屈だし、あたいの欲しいもんの話をして やるか。手に持つ砲さ。弾は石つぶてより細かいもんだけど馬鹿にするなよ、相手を倒すことはできるらしい」 シャットはただ顔をしかめた。「何を言ってんのかさっぱりわかんねえ。砲ってのは軍艦が土手っ腹に抱えてる あれかい? 手に持つってわけがわかんねえ」 「あたいが抱えあげるわけじゃないぞ。本当に手に持つものだって聞いたんだ」 「へっ、昔のお伽話の魔術士にでも小さくしてもらうのかい」 「でたらめ言ってるわけじゃないぞ! 園遊会で聞いたんだ。親父に工廠の連中が話しかけてきてさ。ようやく 話が終わったんで、『お友達?』ってあたいが聞いたら、親父は『全然』ってさ。つまり、予算を出してくれるよう 親父に働きかけてほしかったんだ。連中、説得しようとべらべら延々しゃべってたからね。あたいの耳に丸聞こ えってわけ。実現可能だから、奴らあれほど熱っぽかったんだ」 「じゃあこの島のどこかにちゃんとあるんだな」 「話が飛びすぎだ! だからただのあたいの希望を述べただけだって……」 「嘘つけよ。それが目的でここまで漕いできたんだろ」 「くそ、こじらせやがって。もういいや、朝までその丸太ん上で寝よう」ノーラは片腕でシャットを引っ掛けて力ず くで移動させた。 「あいた!」 (大声でまずいことを色々しゃべくっちゃったじゃないか! 巡邏の憲兵が飛んできたらどーする!) 二人は夜にたたずむ木材のそのまた暗い箇所を選んで隠れた。 「やあ諸君ら……」しかし、美しいほど輝くランタンがやってきてノーラとシャットを照らし出した。 |
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