「寝床をとっかえたって面白くはならねぇよな。どんなゲームなんだ? ここが寮みたいなもんなら隣同士ほとん ど一緒なはずだぜ」少年は一人用の椅子を見つけて座って言った。 「じゃあ宝探しかい。このあたいはちょっとやそっとのもんじゃ驚かないよ」少女は言った。 「だからシャットちゃんに決めさせてやろうって言ったんだ。寮といっても部屋の主はすぐ取っ替え引っ替え船に乗 って出ていく土地だからね、共用みたいなもんさ。置いてあるもんは新しい主が自由にがめていいんだ」主人 は言った。「おー、当たった当たった」ノーラは喜んだ。 「へーえっ」シャットは座りながら部屋を素早く見渡す。薄暗い一室にシャーズの瞳は輝く。「泊まってんのは 酒場の給仕かい」 「給仕だけじゃないよ。料理人や売り子、人夫や船員その他もろもろ、雇い人はいっぱいいるんだ。あとたま にゃあ外の天幕からあぶれた兵隊だって泊めてやる。ここはどんなことになるかわかんない基地だからね。ふん だくれるいい機会さ」 「ちぇっ、シャット君が商売の話どころじゃなくなったじゃないか」ノーラは小さな相棒を見る。 「いやいや、うまい話だから気をつけてんのさ。本当に取っても訴えられないのか?」シャットは部屋を物色して いた。歩き回ることだけこらえて。 「はははっ! 大したもんはないからね。そういうもんはみんなしっかりと船に乗せて持って帰ってるさ!」ティアラ は太い腹をゆすった。 「おばちゃん、ちょっと待っててくれるう。もう、早くやれよ。おっと、夜中だからね、静かにな」内心をすっかり隠 せなくなった子分にノーラは命じる。 「あいよっ」シャットは潜めた声で応えて大人用の椅子から飛び下りた。 「ほう、足音をさせないね」「こいつはできるよ。あたいの苦手なことが得意なようだから見込んでんだ」二人の シャーズ女はシーフの少年の動き回るさまを観察する。 「ここは仕掛けをしてもいいのかい」シーフは建物の主人に訊いた。 「隠し金庫があると思ってんのかい」赤く小さな火が返事をした。ティアラは部屋の唯一の椅子を自分のもの にしており、そこで煙管をくゆらせていた。「すぐ交代していくんだって言ったろう。あとから入るもんが使いにくくな るような変な模様替えはあたしが許さないよ」 「そっか」ノーラが少年に先んじて返事をする。(じゃあ、この下にありそうだな)少女は寝台に座る場所を求め ていた。 「あ、こっちに来やがる」ちょうど心を読んだみたいに足早にシャットが近づいてくる。貴族は平民に命じられて 立たされた。 「ないない。本当に大事なもんは動かして帰ってくとも言ったじゃないか」挑戦者たちのあては外れた。 「凝った考えはするだけ無駄だってさ。早く商売の話に入ろうじゃんか」 「ちぇっ」シャットはノーラにせかされ机を調べた。調度品の少ない簡素な部屋だ。 「おっ……と」夜中に小さな声が上がった。「なんかあったか!? 見せて見せて!」ノーラは狭い部屋でシャ ットに駆け寄る。 「すげえ、金貨袋だ」少年は重たげな袋をゆすった。厚手の皮が底が抜けるのをなんとか防いでいる。 「ほ……本当にただでもらっていいのかい。本当に何もないだろうな」 「金を払って金を手に入れる話があるわけないじゃんか」とノーラ。 「そりゃ部屋の主が置いてったもんだからね。しかしずいぶん強運だ。でも、ここを受け継ぐって決めるまでは誰 のもんでもないよ、ちびすけちゃん」 「そ、そりゃそうだよ、わかってる。ちゃんと落ち着いて中身を確かめねえとな」言うが早いかシャットは金貨の袋 の紐を解いて内容を机の上にこぼれぬように転がした。 「ん、なんだ、ダルトじゃないの」ノーラは言って机の上のランタンを近づける。どの硬貨にも銀貨の刻印が見て 取れた。 「はは、思い込みだね。アルシャをほっとくもんはいないだろうさ」ティアラは煙の向こうで笑った。 「なんだって言うけど十分だよ……。儲かるんだなあ。これだけ家を空けて、どれだけ叱られるかぞっとしなかっ たけど、取り引きに使えそうだ」 「取り引きねぇ」とノーラ。 |
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