熱いものに冷たいものが混じってくる。痛みを超えた違和感にガルーフは七転八倒してあらがっているつもりだった。 「相変わらず馬鹿じゃのう。英雄より目立つな」「これはこれはゲーリング様」「いよぉ、英雄」老人のおどけた声が天から聞こえてきた。次いでグロールの嬉しそうな笑い声。 (あの俺よりでかい戦士のおかげ、みたいな顔をしていたくせに)ガルーフは激しい痛みの中で毒づいた。 「いつまで赤んぼみたいに泣いとるんじゃ」ゲーリングは法衣を少し持ち上げた。バランの神官は倒れ伏す旗持ちの脇腹を蹴る。 「いって!!」ガルーフは反射的に腹を守った。守りに使った腕は意外にひんやりと静かになっていた。まだ内にこもる熱を気分よく押さえ込んでいるように思えた。 「あっ。ポーションか?」狩人の生業の中で致命的な怪我を負った時、神殿への寄付とどちらが高くつくか考えに考えた記憶がある。ガルーフは腕を使って素早く立ち上がった。 「こんなのいつどうやって払えばいいんだ」「おい」ゲーリングの制止もいとわずガルーフは旗を持ち上げた。軽い痛みは節々に残るが、それがまた気分をすっきりさせる。 「ただじゃよ。今のお主は軍人じゃからな」隣の食糧官グロールもこくこくと首を縦に振っている。 「へえー、軍人って得なもんだな。……そうでもねえか? こういう目に遭わされるためにいるわけだ」 「ふん、お主も将軍のお命を助けた英雄じゃな」 「そちらのご褒美も申請しときますよ。まずは靴をもらいましょう」 ガルーフは自分の足元を見た。「ああ。ははは」エルフにかき壊された片方の軍靴が見えた。 ガルーフは靴を両方脱いだ。「そうだ、エルフの捕虜を見に行こう」「あっと、急がないと」ガルーフとグロールは揃って駆けだした。 あとに残された老神官は、(この戦勝ぶりなら皆の信心に期待できる。バラン様のご機嫌も加味されるじゃろう)と祭壇設営の案を練りはじめた。 「うわ、すごい人だかり」 「その割に誰も寄ろうとしねえな」 「みんな機を見るに敏ないっぱしの戦士なんです」 「そうは思えねえなぁ。でかいあいつまでいないぞ。捕虜を抱えてたあいつ」 「グラックス殿っすか。どこかで寝てるか、先にご飯を食べてるのかも」 「俺より勝手なやつだな」ガルーフは笑う。 「強いんですけどね……。自分が殺せなかった奴の顔を見るのが嫌なんでしょ」 「そりゃそうだ。どけどけ」ガルーフとグロールは手足を縛られて座らされているエルフに近寄った。 (おいおい)思わずガルーフは獣面をしかめた。エルフは矢筒を背負ったままで、矢が当然のように作物のごとく植わっている。弓まで装備しており、剣は……鞘だけだ。 ガルーフは声を出さずグロールの背中をつつく。彼は振り返った。しばらく無言だったのでガルーフの言わんとしたことは理解しているらしい。 彼は再び向きを変えて喋った。「ええと、お名前と階級をどうぞ」 「シグールド……」 おお、とガルーフらの後ろで声があがった。「シグールド、シグールド」と名が伝えられていく。 「盛り上がるなよ」とガルーフは溜め息。 |
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