モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

9.ガルーフの食事



(ううむ……)ガルーフの用件はその重量をもってして持ち主の口をなかなか開けさせなかった。

「さっさと喋ったらどーなのよ。エルフの軍の四強が勢ぞろいして縮みあがったか、んー?」小さなエルフは可愛らしくまるまった顎をオークに向かって突き出す。小さいエルフはたいへん気が短いらしい。(こいつのことを、オークの陣の誰に見せてもわかってくれるだろうな)ガルーフはとりあえず話だけ繋ごうと思った。

「四強だって。全員女じゃないか……。エルフというのはやっぱり変わってるな! 女は抱えきれない子供と家を守るのに手一杯じゃないのか。子供はどこへ隠しているんだ。エルフの強さは無尽蔵か? 男が子を守っているのか? いや、エルフの出生はヒューマンより少ないと聞いたな。本当のところは、どうなんだ」ガルーフの刺激された好奇心は、自分で思っていたよりもたくさんの言葉を吐きだした。

「……ぼくは男だ」オークの疑問をかいくぐって、細い声がした。続いて、もっと高い響きの笑い声たち。サーラ、ナーダ、小さなエルフが声を揃えて笑っている。

「えっ、そうか。失礼したな。エルフの顔の見分けなんかつかないぜ。なんでそんな平らな顔ばかりしてるんだ」ガルーフの言は独白みたいに変わっていき、彼は頭をかいた。

「ふ! オークにもエルシーの可愛さは分かるってことだね!」小さなエルフは囃した。

「じゃあ、あんた、私と顔を合わせたのも分からないの?」長身のサーラが割って入る。ガルーフは思わず素直にうなずいた。「しかし本当か? さっきの戦い、俺は前線に出てねえぞ」「もういいわ」サーラは手を振った。

「しかし君は変わったオークだとぼくは思う……。ヒューマンに友人がいるようなことを言っているね」エサランバル最高指揮官のエルサイスは言う。

(ヒューマンか)「なあ」ガルーフはもう一回話題を発することにした。エルフたちの目線がつい、と自分の口に向けられた。

「めしは出ないのか。俺は、ヒューマンの料理を口にしたことがあるんだぜ」一人のエルフを立ち上がらせた。

 サーラは音を立てて両手を机に突き立てた。「こんな時に食事がしたいなんて、あんた、冗談よね」「……冗談さ。悪かったな」

 エルフがもう一人立ち上がった。小さなエルフが、どかどかとわざと足音を立てて似合わぬ大股で部屋から出てゆくので、オークの巨体は不安にかられた。

 小さなエルフはすぐに帰ってきた。耳障りな音を伴って。陶器のぶつかりあう危なっかしくけたたましい音は、おとなしく座しているナーダに自分の長い耳を塞がせた。

 小間使いだと自称していたエルフは茶器を一気に傾ける。ティーカップに向かう細く小さな滝が作られた。

 エルフは杯を素早く自分の口につける。そして皿へ素早く戻す。陶器同士がぶつかる軽くて耳障りな音。

「ほら、毒見完了だよ。言いづらいことがあるなら、喉をうるおしなさい。あちちちっち」エルフは酷使した自分の小さな舌と口をいたわるつもりで扇いだ。

(きたねえ……)ガルーフは望みがかなえられても特に嬉しくなかったが、このまま放置すれば目の前の騒がしいエルフ女が何をするかも分からないので、エルフの杯に口をつけてみせた。

(本当に熱いってことは、最初から用意してたんだな)ガルーフはエルフの茶を吸った。いろいろなことを忘れさせる味だと思った。

「おい、ロリチャン」ガルーフは再び口を開いた。「ありがとうな」

 エルフは顔と身体をこわばらせた。「オークにそんな馴れ馴れしい口を利かれるなんて!」「一言『どういたしまして』がなぜ言えないの、ロリエーン。いちいちうるさいわよ」サーラは彼女の傍らで腕を組んだ。

「あっ、 なんだ、そっちが本名だったのか。重ね重ね悪かったな、ロリエーン」ガルーフが言うと、

「オークに真の名前を唱えられた! 新しい呪いか!?」とロリエーンはますます騒ぎ立てるのだった。

 ぱん、ぱん、とかしわ手が鳴った。「さて、さて。そろそろ言える雰囲気になったかな?」エルサイスが眼差しを注いでくる。ガルーフは「ああ」と言う。

 茶で暖まった身体が急速に冷たく縮こまっていくのを感じながら、ガルーフは喋り始める。

――特例である。人質の遺体の回収を許可する。繰り返すが、特例である。生け贄の肉体を得られないことが我々の最大の譲歩となる。遺体は式典が済み次第、我々がエルフの陣の目前まで進出し受け渡すものとする。式典の見学ならびに、オークの陣への侵入は一切禁ずる。

「あと、これだ」ガルーフは言い終えて懐を探った。「日時は文字にしておかないとまずいと言われて預かってきた……が……」巻物を取り出す。

 先に想像はしていたが、ガルーフは全身の毛が逆立つのを感じている。部屋の空気は一変して重く冷たくて空しい。悪寒がする。覚悟を決めたと思い込んでいた自分を恥じるくらいに。

(殺されて当然なことを俺は言ってるが、納得はできない。こいつらだって納得はしない……)